イクメン(育児に積極的な父親)が社会的に認知されつつある現在、仕事と育児の両立は女性だけの課題ではなく国民全体で考えるべき問題となっている。
10年前、保育所で見てもらえない病気の子供を預かる「病児保育」サービスを立ち上げ保育事業に参入、子育て支援を続けているNPO「フローレンス」代表理事の駒崎弘樹氏は「日本人は働き方を変えるべき」と提言する。
──企業では多様な働き方を認めようという空気が生まれつつある。
駒崎:たしかに育休などの制度は整ってきていますが、マインドが育っていない。上司に「育休をとりたい」と申請した時に「出世したくないの?」と言われたら、制度があっても利用しないでしょう。育児に理解のあるイクメンならぬ“イクボス”が増えなければ、部下は育児に取り組めない。
だから、管理職が変わらなければいけない。私自身、かつてはワーカホリックで、1日16時間働いていました。経営者がそれでは社員にも同調圧力がかかり、フローレンスでも長時間労働が常態化していた。それで起きたのは人材流出です。体力的にきつい、家庭が壊れるといった理由で優秀な女性が辞めていく。そうした失敗の経験があって、まず自分が働き方を変えた。
本当に必要な仕事に絞り、思い切って定時の18時で帰宅してみたら、何も問題はありませんでした。結局、ベンチャーの経営者は忙しいのが当たり前という思い込みにとらわれていただけだったのです。
定時退社を社内に浸透させるため、会議のメンバーを絞って参加者を減らしたり、スタッフがどんな仕事にどれだけ時間を割いているか測定して無駄を減らしたり、ちょっとしたところから改善を進めていくと、生産性がどんどん上がった。社員の残業時間の平均が1人1日15分にまで短縮され、人件費も下がりました。
働きやすくなると、会社のブランド力が上がります。事務局スタッフは採用に1円もかけてないのに、優秀な人材が「給料が半分になってもいい」と集まってくる。