国内

ワンコイン健診で看護師いるのに「自己採血」させられる理由

 企業の定期健診を受けるサラリーマンと違って、フリーターや主婦、自営業者などは健診を受ける機会が少ない。そうした人たちのために「ワンコイン健診」と呼ばれるサービスが生まれ話題となったが、それが「役所の規制」によって邪魔されているという。元キャリア官僚で規制改革担当大臣補佐官を務めた原英史氏(政策工房社長)は新刊『日本人を縛りつける役人の掟』(小学館)の中で規制のおかしさを解説している。

 * * *
 1年以上健診を受けていない人は日本に3500万人いるとする推計があり、自覚症状のない糖尿病の早期発見などが難しい現状がある。そうした中で生まれたのが、1検査500円で手軽に、「血糖値」「コレステロール値」などの数値を測ってもらえる「ワンコイン健診」だった。
 
 都心の病院で血液検査をすれば5000~6000円(保険外の場合)かかり、検査結果を知るために再度病院に行かなければならない。忙しい人や高額な検査代に二の足を踏む人は少なくない。「ワンコイン健診」では、店舗には医師を置かない。看護師だけがいる簡易な検査だが、そのかわり安くて早い。定期的に健診を受ける機会のない人にとって価値の高い新サービス……のはずだったが、そう簡単には事が進まないのが日本の規制社会だ。サービスを提供する中で、いくつかの規制の壁が現われた。

 そのひとつが「採血は自分でやらないといけない」という規制だ。規制される根拠としては、いくつかの法律が挙げられるが、根っこにある規制は「医師法」17条にある〈医師でなければ、医業をなしてはならない〉という条文だ。

 厚労省医政局長通知(2005年)では〈医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為〉を「医行為」とし、それを反復継続することを「医業」としている。ニセ医者が医療行為をやってはいけないという当たり前の条文に見えるが、問題は「医業」ないし「医行為」がどこまでを含むのか。手術などの本格的な医療行為はともかく、その外縁部分になってくるとだんだんおかしな問題が生じてくる。その顕著な事例が、「ワンコイン健診」をめぐる問題だった。

「採血は自分でやらないといけない」と規制される理由は、「採血」が医行為にあたるからだ。つまり、医師にしか認められないのが原則。看護師は例外的に認められる場合があるが、それは「医師の指示」のもとで行なう場合に限られる(保健師助産師看護師法37条)。ワンコイン健診の店舗には、看護師しかおらず、「医師の指示」がないので、採血はできないわけだ。

 ところが、この規制にはおかしな抜け道がある。検査を受ける人が自分で採血することは違法ではない。自分でやるなら違法性が阻却されるというのが厚生労働省の説明だ。その結果、素人が自分一人で採血しても構わないが、プロである看護師は周りに医師がいない限り採血が許されないことになる。奇妙な話だが、合法的に事業をやろうとすれば、「採血は自分で」とせざるを得ないわけだ。

 ワンコイン健診の店舗では、利用者が手の指先に印鑑ケースほどの使い捨て検査器具を当てる。その場にいる看護師の「ボタンを押してください」という声に従ってボタンを押すと器具から小さな針が出て指先から少量の血液が自動的に採取される。このボタンを押すのが看護師ならばアウトで利用者ならばセーフというのだから、規制の馬鹿馬鹿しさがよくわかる。

関連キーワード

関連記事

トピックス

『東京2025世界陸上』でスペシャルアンバサダーを務める織田裕二
《テレビ関係者が熱視線》『世界陸上』再登板で変わる織田裕二、バラエティで見せる“嘘がないリアクション” 『踊る』続編も控え、再注目の存在に 
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
【七代目山口組へのカウントダウン】司忍組長、竹内照明若頭が夏休み返上…頻発する「臨時人事異動」 関係者が気を揉む「弘道会独占体制」への懸念
NEWSポストセブン
カザフスタン初の関取、前頭八・金峰山(左/時事通信フォト)
大の里「横綱初優勝」を阻む外国人力士包囲網 ウクライナ、カザフスタン、モンゴル…9月場所を盛り上げる注目力士たち10人の素顔
週刊ポスト
不老不死について熱く語っていたというプーチン大統領(GettyImages)
《中国の軍事パレードで“不老不死談義”》ロシアと北朝鮮で過去に行われていた“不老不死研究”の信じがたい中身
女性セブン
会話をしながら歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《ベビーカーショットの初孫に初コメント》小室圭さんは「あなたにふさわしい人」…秋篠宮妃紀子さまが”木香薔薇”に隠した眞子さんへのメッセージ 圭さんは「あなたにふさわしい人」
NEWSポストセブン
59歳の誕生日を迎えた紀子さま(2025年9月11日、撮影/黒石あみ)
《娘の渡米から約4年》紀子さま 59歳の誕生日文書で綴った眞子さんとまだ会えぬ孫への思い「どのような名前で呼んでもらおうかしら」「よいタイミングで日本を訪れてくれたら」
NEWSポストセブン
試練を迎えた大谷翔平と真美子夫人 (写真/共同通信社)
《大谷翔平、結婚2年目の試練》信頼する代理人が提訴され強いショックを受けた真美子さん 育児に戸惑いチームの夫人会も不参加で孤独感 
女性セブン
海外から違法サプリメントを持ち込んだ疑いにかけられている新浪剛史氏(時事通信フォト)
《新浪剛史氏は潔白を主張》 “違法サプリ”送った「知人女性」の素性「国民的女優も通うマッサージ店を経営」「水素水コラムを40回近く連載」 警察は捜査を継続中
NEWSポストセブン
ヒロイン・のぶ(今田美桜)の妹・蘭子を演じる河合優実(時事通信フォト)
『あんぱん』蘭子を演じる河合優実が放つ“凄まじい色気” 「生々しく、圧倒された」と共演者も惹き込まれる〈いよいよクライマックス〉
週刊ポスト
石橋貴明の現在(2025年8月)
《ホッソリ姿の現在》石橋貴明(63)が前向きにがん闘病…『細かすぎて』放送見送りのウラで周囲が感じた“復帰意欲”
NEWSポストセブン
ヘアメイク女性と同棲が報じられた坂口健太郎と、親密な関係性だったという永野芽郁
「ずっと覚えているんだろうなって…」坂口健太郎と熱愛発覚の永野芽郁、かつて匂わせていた“ゼロ距離”ムーブ
NEWSポストセブン
新潟県小千谷市を訪問された愛子さま(2025年9月8日、撮影/JMPA) 
《初めての新潟でスマイル》愛子さま、新潟県中越地震の被災地を訪問 癒やしの笑顔で住民と交流、熱心に防災を学ぶお姿も 
女性セブン