--野球ではよく使われます。なぜでしょう?
小野塚:セオリーなんて本当は誰もわからないじゃないですか。高校野球だとノーアウトでランナーが一塁に出たら送りバントがセオリーで、打ったらセオリーじゃないと言う。でもそれはそれぞれのチームの事情から選択した作戦にすぎないわけで、どれが「当然の作戦」なんて、簡単に言えないと思う。
--他には?
小野塚:「逆方向に、球に逆らわずに打つ」という言葉も嫌ですねえ。逆らわずに打ったら、それ「順方向」じゃないですか(笑)。あと右打者がライト前ヒットを打つとよく「右狙いのバッティング」といいますが、右に狙って打つわけじゃないと思う。現役時代の宮本慎也さん(ヤクルト)と話をする機会があって、そのことをいうと、宮本さんは「打てばライトに行く可能性が高いであろう球を選択して打っているんです」と言われて、ああ、やっぱりと思いました。
--自分も含めて、そう形容しがちです。
小野塚:そしていちばん気をつけているのは、高校野球をむやみに美化しないことです。たとえば点差が開いている終盤で負けている学校が盗塁をすると、「最後まで諦めない素晴らしいプレー」とか言いますが、純粋に野球の作戦としてみたとき、頷けないものがある。だから僕はそういうとき「盗塁しました」と事実だけ述べて、大げさなフレーズは付けないですね。
--どうしてですか。
小野塚:見ている少年野球ファンに正しい野球の考え方を伝えたいからです。だってほら、僕は「日本野球株式会社の広報担当者」ですから(笑)
小野塚康之(おのづか・やすゆき)プロフィール
1957年生まれ、学習院大卒。1980年NHK入局。一貫してスポーツ、とくに野球中継にこだわり、野球実況歴34年という大ベテラン。現在所属する神戸放送局のHPで熱い高校野球コラム「甲子園ではハイテンション」を連載中。今夏の甲子園での実況担当は、テレビが7日目第1試合、10日目第4試合、ラジオが12日目第4試合を予定している。