スポーツ

甲子園名物アナの小野塚康之氏「使わないと決めた言葉ある」

NHKアナウンサーの小野塚康之さん

 今日開幕した夏の甲子園で、ひとりの人物の「動向」が高校野球ファンの間で注目を集めていた。NHKアナウンサー、小野塚康之さん(57歳)である。その良い意味でNHKらしからぬ熱い試合の実況は、ネットに「まとめサイト」が出来るなど、多くの視聴者の心をつかんでいる。昨夏は異動の関係で実況担当を外れたが、今年は復帰、さっそくネットで歓迎の声が上がった。「私は日本野球株式会社の広報担当者」という小野塚さんに、「高校野球中継の心」を聞いた。(取材・文=フリーライター・神田憲行)

 * * *
 小野塚さんの実況中継で私の印象に残っているのが、2007年の夏の甲子園決勝、佐賀北対広陵戦だ。佐賀北の副島選手の逆転満塁弾が出たあと、広陵のエース野村のピッチングが乱れ始めた。ここまで頑張ってきたのに、ここで崩れてしまうのか、と試合を見ていて切ない気持ちになっていた私の耳に、小野塚さんの声が飛び込んできた。「野村頑張れ、頑張れ」。自分の気持ちをそのまま言ってくれているように感じた。

--片方の選手にアナウンサーが「頑張れ」と声援を送ったことについて、「公平中立の立場からしておかしいのではないか」と言った私の取材仲間もいました。あとで局内でなにか言われました?
小野塚:いえ、全然。たしかにそこだけ取り出せば「公平中立」ではないかもしれませんが、僕はその試合の中で佐賀北を声援するフレーズも言っています。つまり引いた立場からの「公平中立」ではなくて、僕の場合は入れ込んで「両方とも頑張れ」という立場での「公平中立」なんです(笑)。

--やはりそういう言葉はとっさに出てくるものなんですか。
小野塚:そうですね。事前に用意しておく言葉もあるんですが、僕、実況中に我を忘れることがよくあるんですよ(笑)。98年の明徳義塾対横浜戦(横浜の逆転サヨナラ勝ち)を実況したあと、解説の方から「小野塚ちゃん、鼻水垂らしながら絶叫してたよ」とからかわれました(笑)

 私事のついでにさらにいうと、小野塚さんと一緒に取材していて印象に残った光景が二つある。ひとつは試合前に両校の監督選手に話を聞く「試合前」取材。小野塚さんは投手から「持ち球はスライダー」と聞くと、「それはタテ?ヨコ?」と必ず細かく訊ねる。

小野塚:やはり出来るだけ正確に伝えたいじゃないですか。ただ「変化球をセンター前ヒット」というんじゃなくて、「スライダーをセンター前に」とか。解説の方に話を振るときも、「ここで決め球はなんですか」というより「この投手の変化球はタテのスライダーとカーブがあります。どれを選択するでしょうか」とか、整理した上で話を振りたい。

--あと、試合後の取材で、負けた方の監督さんに話を聞いている光景も見ました。負けた学校はもう試合に出てこないので、実況担当アナが取材する必要は無いはずです。あれはなにを聞いていたんですか。
小野塚:野球理論とか作戦についてですね。どのタイミングでヒットエンドランのサインを出すのかとか、自分の勉強のための取材です。でも実際に実況しているときは、あまり自分が調べたデータを喋りすぎないことも大切なんです。

--どういうことですか。
小野塚:これは私がフランスのアルベールビルで開かれた冬季五輪で学んだことです。橋本聖子選手の全盛期で、僕は彼女の記録を一生懸命調べあげていって、実況でとうとうとそのことを語っていたんです。しかし一緒に行ってた先輩アナの内藤勝人さんは「ニッポンの、橋本聖子」、ただこれだけ(笑)。これだけで橋本さんの存在感がグワンと伝わるんですよ。見ている人聞いている人にそれだけで橋本さんの絵が浮かぶ。いやこりゃ参ったな、と。アナウンサーは言葉のトーン、「間」だけで伝えることも大切だなと思います。

--他に実況中継で気をつけていることはありますか。
小野塚:使っている人を否定するつもりはありませんが、僕は「セオリー」という言葉はできるだけ使わないようにしています。

関連キーワード

関連記事

トピックス

球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン