佐治社長は、その判断基準についてはこう話してくれた。
「気です。起案者のエネルギー、情熱が感じられれば僕のテイストでなくてもよろしい。また、データを信じてはいけない。データが先に来ると、どうしても凝り固まってしまい、新しいモノがでない」
求めているのは、人の強い意志であり、情熱。安定志向や従来の延長的な発想を、ことごとく嫌う。一方で現実主義者の顔も持つから佐治社長とは不思議な人だ。何より言ったことは必ず、実行する。
国内市場は少子高齢化が進み、拡大の余地は小さい。海外展開が急がれていたが、その上でグローバルな舵取りができるプロ経営者を外部から入れる。115年の伝統を守るために、「創業家」という伝統を捨てたのだ。ある取材で、佐治社長がこんな危機感を口にしていたことがある。
「かつては『やってみなはれ』より前に、『やっちゃいました』と勝手にやってしまう社員がいた。ところが最近はいなくなり面白くない」
一見、“賭け”と称される佐治社長の経営だが、全てはリアリストならではの計算に基づく。もちろん、ただ慎重なだけではない。決断の裏には、偉大なる祖父、父を乗り越えようとしながらも、サントリーのDNAを次世代に必死で残そうとする佐治社長の生き様が滲み出ている。やってみなはれ──その言葉は今、佐治社長から離れ、“創業家外”の経営者に受け継がれようとしている。
※SAPIO2014年9月号