それこそ、まさに吉田氏が危惧していたことにほかならなかった。それが冒頭の外国メディアの報道につながっているかと思うと、同じジャーナリズムの世界にいる人間として実に残念に思う。
それは、従軍慰安婦問題でも、「強制連行」と「女子挺身隊」という歴史的な誤報を犯して、日韓関係を破壊した同紙のあり方を思い起こす手法だった。
あらためて述べるまでもないが、1991年8月11日に朝日新聞が突如、掲載した従軍慰安婦記事は、その後の日本と韓国を決定的に遠ざけ、また、世界のあちこちに立つ慰安婦像のもとになった。朝鮮人の従軍慰安婦というのは、この朝日の記事によって、〈日中戦争や第二次大戦の際、「女子挺身隊」の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた〉存在となった。
だが、女子挺身隊とは14歳以上25歳以下の勤労奉仕団体のことであり、慰安婦とは何の関係もない。また彼女らが本当に「連行」されて「売春行為」を強いられたというのなら、「拉致」「監禁」「強姦」の被害者ということになる。
当時、さまざまな事情によって、兵士の30倍もの給与を保証されて春を鬻ぐ商売についた薄幸な女性たちには深く同情する。しかし、日本が国家として彼女たちを拉致、監禁、強姦したという「事実と異なる」報道には“ノー”と言わざるを得ない。
私は今回、同じように事実を捻じ曲げられ、命令に「違反」して「逃げた」とされた福島第一原発の人々に深く同情するのである。(つづく)
◆門田隆将(かどた・りゅうしょう)/1958(昭和33)年、高知県生まれ。『この命、義に捧ぐ 台湾を救った陸軍中将根本博の奇跡』(角川文庫)で第19回山本七平賞受賞。近著に『太平洋戦争 最後の証言』(第一部~第三部・小学館)、『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日』(PHP)、『狼の牙を折れ 史上最大の爆破テロに挑んだ警視庁公安部』(小学館)、『記者たちは海へ向かった 津波と放射能と福島民友新聞』(角川書店)がある。