先輩はいわゆる「人権派弁護士」ではなかった。
「神田、自分が食えへんかったら、困ってる人も助けられへんでぇ」
といって企業の顧問弁護士も普通に受けていた。ただ「法治主義」「推定無罪」という当たり前の原則を法律家の立場から貫こうとしていただけだ。
あれから10年以上たって、原則はさらにないがしろにされている。
憲法で保障された生活保護制度を問題にする政治家がいる。路上で警官隊に守られながら在日韓国人の方々に差別的言辞を弄する集団がいる。私はヘイトスピーチを非難するツイートをして、集団と意見を同じにする人々からしつような罵倒のツイートが飛んできた経験が何回かある。職業柄私はそういうものには馴れているが、そうでない人々に萎縮効果を与えるだろう。
いつのまにか私たちは「人権を守れ」という当たり前の主張をするのに、勇気が要る社会にしてしまった。