その純子と、元新聞記者のライター〈瀬島桐子〉が、吉祥寺の自然食品店で再会する場面から物語は始まる。桐子は極卵の生産者〈山田謙太〉を取材した縁で店員の〈小森麻衣〉と知り合い、偶然紹介された常連客が高校の元同級生・純子だった。2人に交流はなかったが、この日買った極卵が原因で純子の息子が〈ボツリヌス症〉による神経麻痺を発症し、歯車は再び動き始める。

 結局親鶏からも菌は検出されず、酸素中では繁殖しにくいボツリヌス菌の卵による中毒自体が異例だったのだ。新型の可能性も取り沙汰される中、相州地鶏を復活させた〈相州生命科学研究所〉が遺伝子組み換えに関与していると根拠もなく煽るジャーナリストも…。〈マッチポンプ野郎〉こと、桐子の先輩記者〈石黒〉である。そしてメディアによる集中砲火の中、謙太の父〈伸雄〉は自ら命を絶つ。

「石黒的な人はどの世界にもいて、だからこそ“証拠”が大事です。STAP細胞にしろ本当にあるなら証拠を示せばよく、それを信じるとか信じないとか、日本人は科学リテラシーが低すぎます。震災の風評被害でも誰かが危ないと言ったらそれをそのまま信じる人がいる。だから穏健派は嫌気がさして口を噤み、過激な人々はますます暴走する」

 生産者との〈顔の見える関係〉にしろ、何かあれば顔など忘れるのが消費者だ。桐子が取材を進める一方、夫や姑の無理解に悩む純子はある消費者団体に参加。テレビにも出演して危険性を訴えた。また一連の騒動を裏で操る石黒の目的や、遺伝子操作をめぐる企業側の思惑など、事件は現代の食事情や人間模様を映し、思わぬ方向に転がり始める。

 後に同団体を去る女性が〈自分が正しいと思う主張を通すためなら、デマを流してもいい〉〈それって国益のために国民を騙してもいいと考える人たちと、何が違うんですか〉と非難するように、「目的と手段」の歪みが本書の隠れた主題。

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