ライフ

猪瀬直樹氏「都知事辞任より妻との別れがずっと辛かった」

2011年11月、長男の結婚披露宴での猪瀬直樹氏とゆり子さん

 都知事辞任から10か月、猪瀬直樹氏(67)が沈黙を破った。新刊『さようならと言ってなかった わが愛 わが罪』(マガジンハウス刊)で「5000万円の真実」を明かし、突然の病に倒れた妻・ゆり子さんとの40余年の日々を綴っている。

 医療法人・徳洲会からの5000万円の貸借について今年3月、選挙の収支報告書にそれが記載されていないとの事実から公職選挙法違反で略式命令、罰金50万円(公民権停止5年)の処分を受けた猪瀬氏は、改めてこう記す。

〈僕の軽率な行動が都民の負託を裏切ることになり、お詫びするしかない。石原慎太郎さんから渡されたバトンをつなぐことができなかった。都知事選挙を差配してくれた特別秘書はじめ僕を支えてくれたスタッフまでもが疑いの眼で見られ、耐え難い苦痛を与えてしまった。彼らには何の罪もなく責められるべきは僕一人だ。妻ゆり子に対しても、僕の自分勝手な行為について詫びる機会も得ぬまま別れたことが痛恨の極みである。〉(『さようならと言ってなかった わが愛 わが罪』より。〈〉内以下同)

 アマチュア政治家、だったがゆえの軽率。しかし、猪瀬氏にとって何より堪えたのはゆり子さんとの永遠の別れだったという。

 猪瀬氏とゆり子さんは大学時代に知り合った。卒業後まもなく結婚するも就職はせず、工事現場のがれきを片付ける仕事なども経験しながら作家への夢を追う猪瀬氏を、ゆり子さんは教鞭をとりながら支えた。物書きとして身を立てた後も、都政を担うことになってからも、ゆり子さんは猪瀬氏の最大の理解者、支持者であり続けた。

 そんなゆり子さんが五輪招致活動のさなかの2013年7月、帰らぬ人となった。悪性脳腫瘍との診断を受けてからわずか2か月だった。

「こういう言い方は変に聞こえるかもしれないけれど、都知事を辞めたことはもういいんです。自分の未熟さからああいう幕引きになった。これからはまた作家として仕事をしていくつもりです。ただ、妻に先に逝かれたことはいまだに整理がつきません」(猪瀬氏)

 都庁を去り、蟄居した猪瀬氏がまず取り組んだのが同書だ。

<僕は作家である。ゆり子は、ときどき不満を言った。
「わたしのこと、一度も書いてくれたことないじゃない。いつか書いてね」
 聞き流していた。僕の流儀として私小説は書きたくない。
 余命数カ月と、突然、宣告される一年前、僕はゆり子に「一度だけ花嫁衣裳を着て写真を撮ろうよ。夜汽車にのってきたままだからさ」と言ってみたことがある。
 その夏、テレビのインタビューにゆり子が僕といっしょに一度だけ、登場した。
「どんなきっかけでご結婚なさったのですか」
 そう訊かれたとき、ゆり子へ視線を向けると、あどけない表情で掌を小さく振りながら「言って、言って」と合図している。でも僕は「書かないことはいわない」とまた理屈を並べてしまった。
 お気に入りの青いロングのワンピースを着たゆり子の立ち姿は美しく映っていた。
「花嫁衣裳の写真、もうこれでいいわ」
 嬉しそうだった。>

 猪瀬氏は、妻との約束を果たしたのだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ヴィクトリア皇太子と夫のダニエル王子を招かれた天皇皇后両陛下(2025年10月14日、時事通信フォト)
「同じシルバーのお召し物が素敵」皇后雅子さま、夕食会ファッションは“クール”で洗練されたセットアップコーデ
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
【長野立てこもり殺人事件判決】「絞首刑になるのは長く辛く苦しいので、そういう死に方は嫌だ」死刑を言い渡された犯人が逮捕前に語っていた極刑への思い
NEWSポストセブン
ラブホテルから出てくる小川晶・市長(左)とX氏
【前橋市・小川晶市長に問われる“市長の資質”】「高級外車のドアを既婚部下に開けさせ、後部座席に乗り込みラブホへ」証拠動画で浮かび上がった“釈明会見の矛盾”
週刊ポスト
米倉涼子を追い詰めたのはだれか(時事通信フォト)
《米倉涼子マトリガサ入れ報道の深層》ダンサー恋人だけではない「モラハラ疑惑」「覚醒剤で逮捕」「隠し子」…男性のトラブルに巻き込まれるパターンが多いその人生
週刊ポスト
問題は小川晶・市長に政治家としての資質が問われていること(時事通信フォト)
「ズバリ、彼女の魅力は顔だよ」前橋市・小川晶市長、“ラブホ通い”発覚後も熱烈支援者からは擁護の声、支援団体幹部「彼女を信じているよ」
週刊ポスト
新聞・テレビにとってなぜ「高市政権ができない」ほうが有り難いのか(時事通信フォト)
《自民党総裁選の予測も大外れ》解散風を煽り「自民苦戦」を書き立てる新聞・テレビから透けて見える“高市政権では政権中枢に食い込めない”メディアの事情
週刊ポスト
ソフトバンクの佐藤直樹(時事通信フォト)
【独自】ソフトバンクドラ1佐藤直樹が婚約者への顔面殴打で警察沙汰 女性は「殺されるかと思った」リーグ優勝に貢献した“鷹のスピードスター”が男女トラブル 双方被害届の泥沼
NEWSポストセブン
出廷した水原一平被告(共同通信フォト)
《水原一平を待ち続ける》最愛の妻・Aさんが“引っ越し”、夫婦で住んでいた「プール付きマンション」を解約…「一平さんしか家族がいない」明かされていた一途な思い
NEWSポストセブン
公務に臨まれるたびに、そのファッションが注目を集める秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
「スタイリストはいないの?」秋篠宮家・佳子さまがお召しになった“クッキリ服”に賛否、世界各地のSNSやウェブサイトで反響広まる
NEWSポストセブン
司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 電撃解散なら「高市自民240議席の激勝」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 電撃解散なら「高市自民240議席の激勝」ほか
NEWSポストセブン