ライフ

奥田英朗新作 20代後半の平凡な女による手に汗握る犯罪小説

【話題の著者に  訊きました!】
『ナオミとカナコ』/奥田英朗さん/幻冬舎/1836円

 百貨店の外商部に勤務する直美と、専業主婦の加奈子は大学時代からの大親友。加奈子が夫・達郎から激しいDVを受けていると知った時、直美の中で、達郎を排除する“クリアランス・プラン”が生まれる。達郎と瓜二つの中国人、認知症を患う高齢女性との出会いを経て、それは確かな完全犯罪になったはずだったが――。

「ぼくは映画から小説のヒントを得ることが多いんです。今回は『太陽がいっぱい』『テルマ&ルイーズ』『ミッドナイト・エクスプレス』みたいな、ハラハラドキドキ、次、どうなるんだと思うものを書きたくて」(奥田さん・以下「」内同)

 作者の言葉どおり、手に汗握る展開が最後まで続く。直美と加奈子。20代後半の平凡な女が犯罪に引き寄せられ、追われる立場になる。

「何年か前に、女性整体師が親友と一緒に、自分の旦那を殺した事件がありましたよね。女の友情ってこういうことをしてしまえるんだと興味深かった。男同士ではそうはいかない。女の人は社会的に弱いせいか、追いつめられやすく、人を殺す動機も男とは違ってくるのかもしれない」

 小説は2部構成。第1部の主役の直美は独身で、百貨店の外商部員という設定だ。顧客への献身ぶりや、高額商品を並べた商談会の様子がリアルに描かれる。

――奥田さんも外商で買い物を?

「いやいや(笑い)。しないですし、特に取材もしてないけど、コピーライターだった時デパートの仕事もしていたので、だいたいの様子はわかっています」

 商談会で高価な時計を盗んだ中国人女性を追いかけるうち、そのしたたかさに驚き、魅かれた直美は彼女と親しくなっていく。

――中国人の友達が(いる)?

「いないです(笑い)。昔、これもコピーライター時代、仕事をしたことはありますけど。ミスしても絶対謝らず、最後はこちらが根負けするんだけど、そんなに嫌な気はしなかった。この人たちは、日本人がふだん悩んでるようなことで絶対くよくよしないんだろうな、って」

 変わり始めた直美は、DV(家庭内暴力)で苦しむ親友の加奈子の手を引くように、彼女の夫を「排除する」計画を立て実行に移す。直美の母もまた、夫の暴力を受けていた。

 第2部の主役は加奈子に代わる。声も上げられない被害者だった彼女が、次第にたくましく、行動力を身につけていく。そこに新たな登場人物が現れ、行く手に立ちふさがる。2人は別の人生をつかめるのか。

 第1部で描いた完全犯罪を、作者みずから突き崩していく。着地点を決めず、2人と同年代の編集者らの感想も聞きながら登場人物を動かしていった。

「ストーリーの分岐点に来たら、わざと困難なほうを選んで、どうするか考えます。男の都合、作者の都合は絶対入れない、と思って書きました。人を殺すって大変なことだけど、いろんなことが重なって、一線をぽーんと超えてしまうところもまた、人間にはあるんじゃないかな」

(取材・文/佐久間文子)

※女性セブン2014年12月4日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
芸能活動を再開することがわかった新井浩文(時事通信フォト)
「ウチも性格上ぱぁ~っと言いたいタイプ」俳優・新井浩文が激ヤセ乗り越えて“1日限定”の舞台復帰を選んだ背景
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
小説「ロリータ」からの引用か(Aでメイン、民主党資料より)
《女性たちの胸元、足、腰に書き込まれた文字の不気味…》10代少女らが被害を受けた闇深い人身売買事件で写真公開 米・心理学者が分析する“嫌悪される理由”とは
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン