その後、『徳川家康』では豊臣秀吉、『太平記』では楠木正成、『龍馬伝』では勝海舟と、大河ドラマに何度も出演している。

「歴史上の人物を演じる時は、肌触りを大事にしています。人物としての木目(きめ)を出したいんですよ。秀吉の時は感情豊かに、人間の強弱をつけていく。母親が死んだときはガキミソのように、泣くだけ泣こう、とか。

 楠木の時は『土の人』というイメージを貫きたかった。大河を演じる時は形容詞が欲しいんですよね。『この人は~な人だった』という。楠木では司馬遼太郎さんの寸評を思い出しましてね。『楠木は河内の土豪の出身で、話しているうちに人を溶かすような人間的な魅力にあふれている』と。その言葉が好きでして。

『働き者の農民のような侍であった』というのをやろうとしたんですよ。それを演出陣も分かってくれて、『甲冑を着たシーン以外はすべて畑仕事をやる』っていう楠木像になりました。

 大河ドラマでは、主題歌がつく前に自分で勝手に主題歌をつけるんです。楠木の時は、出陣を決意する場面で『父はこれより吉野に赴かん』と子どもに別れを言うんですが。その時には『青葉繁れる』が頭の中を流れていましたね。それでポロポロと泣いてしまったんですよ。

 勝海舟では『ひたすら江戸弁でやらせてくれ』とプロデューサーとディレクターに頼みました。福山(雅治)君の龍馬がわりとおっとりと土佐弁を使うので、こちらは凄くせっかちで急かせるという。そこに自分なりの木目を置きたかったんです。資料を読んでも、普段の海舟は『落語家のような江戸言葉だった』と書いてありましたからね。それで、落語家さんに指導でついてもらいました」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮新書)、『時代劇ベスト100』(光文社新書)ほか。責任編集をつとめた『文藝別冊 極彩色のエンターテイナー 五社英雄』(河出書房新社)も発売中。

※週刊ポスト2014年12月19日号

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