2014年の日本の自動車マーケットでは、国産勢がやや不活発だったため、相対的に輸入車の新モデル投入が盛んに感じられた。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏に、輸入車の注目モデル3台をピックアップしてもらった。
●1位/メルセデス・ベンツ「Cクラス」
7月に発売されたメルセデス・ベンツの小型セダン「Cクラス」。Cクラスは欧州Dセグメント(セダンモデルで全長4.7m前後)の高付加価値レンジ、俗に言う「プレミアムD」に属するモデルで、新型は4代目。1982年に発売された「190E」から数えるとすでに33年目に入っている。
このCクラスを1位に挙げた理由は、クルマに使われているテクノロジーではなくデザインである。もちろん技術面も最新だ。ボディはアルミニウムと鋼板のハイブリッド構造で軽量に作られ、エンジンは熱効率の高い直噴ダウンサイジングターボ。歩行者感知機能を持った自動ブレーキ、車線維持アシスト装置など安全装備もすごい。
が、これらの技術は自動車工学が日進月歩する中で生まれてきたもので、ライバルメーカーも力を入れている分野。それ自体で決定的なアドバンスが得られるというものではない。それに対して新型Cクラスのデザインは、ベンツのブランドイメージを背景として生まれながら、そのブランド力をさらに強固なものにするだけのパワーを持ったものだ。
ボディ表面の造形はこのところ欧州車のトレンドだった、パキッとしたプレスラインを刻み込むものから大転換し、ラインの折り目は緩やかなカーブにとどめ、陰影で線を表現するというものになった。
ヘッドランプやリアコンビネーションランプ内部の光のテクスチャも、フラッグシップである「Sクラス」との血縁を感じさせるような緻密なデザインを持つ。インテリアもかつてのベンツのようなメカメカしさは影を潜め、イタリアの木工工芸のような美しいカーブを持つものに変わった。
最近ベンツは世界販売を大きく伸ばしているが、その原動力となっているのはこのCクラス。とりわけ、成熟市場で高級車は縮小する一方と日本メーカーが分析していた欧州市場で人気が沸騰、劇的な成功を収めている。オーストリアのあるディーラーで聞いたところ、顧客の購入動機の大半はこのデザインなのだという。
高級車のユーザーは概して保守的だ。デザインテイストを刷新し、それを顧客に受け入れてもらうのは非常に難しく、プレミアムD以上のクラスにおいて世界で圧倒的な支配力を有するダイムラー、BMW、アウディの“ジャーマンスリー”も長年、保守的デザインの陳腐化に頭を痛めてきた。
ダイムラーはフラッグシップのSクラスでデザイン改革を断行、さらにそのイメージをコンパクトなCクラスに直接投影することに成功した。高級車市場はまだまだ行き詰ってなどおらず、大きなバリューを生み出し得るということを見せつけたという点で、新型Cクラスは傑作と言っていい。