国内

人質事件 日本は国際社会から「身代金を払う国」と見られる

 イスラム国が拘束しているジャーナリスト・後藤健二氏と民間軍事会社代表・湯川遥菜氏の殺害予告を行ない、2億ドルの身代金支払いを要求した(24日には湯川氏が殺害されたとする映像が公開された)。この問題で、安倍首相は「テロには屈しない」と強調しているが、日本政府は過去のテログループによる邦人人質事件で「身代金」を支払い、国際社会からは「カネを払う国」と見られている。

 古くはダッカ日航機ハイジャック事件(※注1)で時の福田赳夫首相が「人命は地球より重い」という言葉で600万ドル(当時のレートで約16億円)の身代金を払ったうえに、服役中だった連合赤軍メンバーら6人を釈放。小渕内閣時代のキルギス日本人誘拐事件では、官房機密費から3億円の身代金が払われたことを後にキルギス政府関係者が明らかにしている。

【※注1】ダッカ日航機ハイジャック事件/1977年、拳銃や手榴弾で武装した過激派「日本赤軍」5名がフランス発羽田空港行きの日航機をハイジャックし、バングラデシュのダッカ国際空港で乗客を人質に日本政府と交渉。政府は超法規的措置として要求に応じた。

 小泉内閣時代にイラクで日本人青年がアルカイダを名乗る組織によって殺害された事件(※注2)では、犯人側が犯行声明の中で日本政府から数百万ドルを支払うという申し出があったとしている。

【※注2】イラク日本人青年殺害事件/2004年、国際テロ組織アルカイダがインターネットで日本人青年を人質にとったと明らかにし、自衛隊のイラク撤退を要求。政府は撤退を拒否した。人質の青年は遺体で発見され、斬首の動画がネット上に配信された。

 イスラム国は拘束した外国人の身代金を有力な収入源としている。米紙ニューヨーク・タイムズ(昨年10月26日付)によると、フランスやスペイン政府は自国民の人質解放のために1人あたり平均200万ユーロ(約2億7400万円)以上を支払ったという。

 国連安全保障理事会の報告書ではイスラム国が最近1年間で得た身代金収入の総額は「3500万ドル(約41億円)~4500万ドル(約53億円)」と推定されている。

 英国の危機管理セキュリティ会社G4S社の日本法人役員などを務めた国際政治アナリストの菅原出氏が指摘する。

「身代金目的の誘拐事件は人質の存在を公表される前に解決するのがセオリーです。その方法でフランス人やスペイン人が救出されたケースは多い。しかしイスラム国側は今回、日本政府との交渉に行き詰まって首相中東訪問に合わせてビデオ公開に踏み切り、邦人人質を政治的デモンストレーションに利用した。イスラム国がビデオメッセージで身代金を要求したのは初めてであり、他の過激派組織にも、日本は標的にしていいという認識が広がった。

 こうなると日本政府が今から要求に応じれば国際社会から批判を浴びるし、中東に滞在する邦人の危険が高まる。日本政府は非常に厳しい状況に陥った」

※週刊ポスト2015年2月6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
3年前に離婚していた穴井夕子とプロゴルァーの横田真一選手(Instagram/時事通信フォト)
《ゴルフ・横田真一プロと2年前に離婚》穴井夕子が明かしていた「夫婦ゲンカ中の夫への不満」と“家庭内別居”
NEWSポストセブン
二刀流かDHか、先発かリリーフか?
【大谷翔平のWBCでの“起用法”どれが正解か?】安全策なら「日本ラウンド出場せず、決勝ラウンドのみDHで出場」、WBCが「オープン戦での調整登板の代わり」になる可能性も
週刊ポスト
高市首相の発言で中国がエスカレート(時事通信フォト)
【中国軍機がレーダー照射も】高市発言で中国がエスカレート アメリカのスタンスは? 「曖昧戦略は終焉」「日米台で連携強化」の指摘も
NEWSポストセブン
テレビ復帰は困難との見方も強い国分太一(時事通信フォト)
元TOKIO・国分太一、地上波復帰は困難でもキャンプ趣味を活かしてYouTubeで復帰するシナリオも 「参戦すればキャンプYouTuberの人気の構図が一変する可能性」
週刊ポスト
世代交代へ(元横綱・大乃国)
《熾烈な相撲協会理事選》元横綱・大乃国の芝田山親方が勇退で八角理事長“一強体制”へ 2年先を見据えた次期理事長をめぐる争いも激化へ
週刊ポスト
2011年に放送が開始された『ヒルナンデス!!』(HPより/時事通信フォト)
《日テレ広報が回答》ナンチャン続投『ヒルナンデス!』打ち切り報道を完全否定「終了の予定ない」、終了説を一蹴した日テレの“ウラ事情”
NEWSポストセブン
青森県東方沖地震を受けての中国の反応は…(時事通信フォト)
《完全な失敗に終わるに違いない》最大震度6強・青森県東方沖地震、発生後の「在日中国大使館」公式Xでのポスト内容が波紋拡げる、注目される台湾総統の“対照的な対応”
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
《名古屋主婦殺害》「あの時は振ってごめんねって会話ができるかなと…」安福久美子容疑者が美奈子さんを“土曜の昼”に襲撃したワケ…夫・悟さんが語っていた「離婚と養育費の話」
NEWSポストセブン
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
《悠仁さまとの差》宮内庁ホームページ“愛子内親王殿下のご活動”の項目開設に「なぜこんなに遅れたのか」の疑問 皇室記者は「当主の意向が反映されるとされます」
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン