国内

人質事件 現地国に責任丸投げするのが日本政府の悪しき伝統

 最悪の結果を迎えたイスラム国による日本人人質事件で、日本政府はヨルダン政府に頼り切りの状況だった。これまでも「現地国に責任を丸投げする」というのが、政治家・官僚ともに責任を取りたがらない日本政府の悪しき伝統でもある。

 1996年に発生した「在ペルー日本大使公邸占拠事件」では天皇誕生日のレセプション中に武装勢力が乱入し、日本人駐在員やペルー政府関係者などを人質として約4か月にわたって占拠した。最終的にペルー軍と警察の特殊部隊が公邸に突入し、犯人グループを全員射殺し、犠牲者を出しながらも日本人全員が生還するという結末だった。

 フジモリ大統領が特殊部隊に突入を指示する際、事前に日本への通告がなかったことが後に話題になった。大使館は治外法権であり、軍が許可もなく入ることは許されない。当時の橋本龍太郎首相はそれを「遺憾」と語っている。

 だが、事件後に大統領官邸で行なわれた記者会見で、フジモリ大統領はその点を明確にするよう迫った本誌記者に気色ばんでこう答えている。

「情報管理はすべてわれわれの手で、われわれの責任だけでやった。われわれに対し、誰も平和的解決に向けた具体的計画を示さなかった。だからわれわれの政府だけで解決した。これはあなたがたが望んだ結末でしょう」

 つまり、日本政府は“平和的解決を”と注文をつけながら具体策も示さずにペルー政府に丸投げ。当時、本誌取材に対して政府中枢筋は「官邸とフジモリ大統領の間で、“武力突入やむなし”という暗黙の合意があったと考えていい」と話している。万一、強行突入で犠牲者が出た際にも日本政府に責任が及ばないよう予防線を張っていたのだ。

 その姿勢は、ヨルダンに解決を丸投げした今回の人質事件でも全く変わっていない。

 米英はテロリストとは一切取引しないと明言し、それを実行しているが、世界の人質交渉の実態について元駐レバノン特命全権大使の天木直人氏が解説する。

「レバノン大使時代、頻繁に行なわれていたイスラエルとヒズボラ(レバノンのシーア派イスラム主義者組織)の人質交換を近くで見てきたが、すでに亡くなっている人質を生きているものとして交渉するなど、タフな騙し合いが常態化していた。日本とはレベルが違いすぎます」

 フランスなどイスラム国との人質交渉で身代金を払う国もあるが、その場合も日本のやり方とは違う。国際政治アナリストの菅原出(いずる)氏はこう指摘する。

「各国にいる交渉のエキスパートが出てきて、値切り交渉から人質の生存確認まで、ギリギリに条件を詰めたうえで支払いに応じている」

 責任問題となることを恐れ、他国に丸投げする政府など先進国では我が国だけなのだ。

※週刊ポスト2015年2月13日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン