「アゲイン 28年目の甲子園」(大森寿美男監督)

 重松清原作の小説を中井貴一主演で映画化した。物語は埼玉大会決勝を前に不祥事で出場辞退を余儀なくされた野球部員たちが、28年後におっさんになって、野球部OBたちの大会「マスターズ甲子園」(実際にある)出場をめがけて奮闘する姿を縦糸に、重松作品に通底するテーマ「家族」が横糸となって絡まり展開していく。

「失われた青春を取り戻す」というのは物語の類型のひとつだが、あるシーンでグラウンドをひっそりと後にする中年女性の後ろ姿と、それを見送る中井の寂しそうな視線が、作品に深みを与えている。

 プレーのシーンは、もともとが腹が突き出たおっさんがやる野球なので許容範囲内だろう。それより「高校の野球部」の雰囲気をよく伝えていると思う。「マネージャーを傷つけられて黙っていられる野球部員などいない」という台詞にぐっときた。

泣いた回数……1回(娘さんがいるお父さんなら泣き過ぎて死ぬと思う)
野球濃度……70%

「バンクーバーの朝日」(石井裕也監督)

 1914年から1941年までカナダのバンクーバーに実在した日系人の野球チーム「朝日軍」の史実を元にした物語。貧しさと差別に苦しみながら、「頭脳野球」で勝ち進み、カナダリーグのチャンピオンに輝く。しかし第二次世界大戦の影響で日系人は敵性外国人として強制収容所に収容され、朝日軍は消滅する。2003年、カナダの移民社会、野球文化の貢献などから朝日軍はカナダの野球殿堂入りを果たした。

 映画のパンフレットで脚本家が「野球映画というより青春映画のつもり」と書いているとおり、他の2本に比べて野球シーンは少なくて野球濃度は薄い。そのなかで輝いているのが、アイドル界きっての野球小僧、亀梨和也である。キレやすい投手役を演じ、ボールでグラブを叩く仕草などいかにも「やりこんでる」感がある。ピッチングフォームがどこがぎこちないので、前に実際にみたときの美しい佇まいと違うなと思っていたら、昔の映像を見て当時のフォームを真似たとか。さすがである。受ける捕手役も横浜高校野球部OBの上地雄輔だ。

 高畑充希が泣きながら歌う「Take Me Out to the Ball Game」はぐっと来た。

泣いた回数……涙ぐんだのが1回(亀梨ファンなら号泣するかも)
野球濃度……60%

 それにしても3本のうち戦争が背景にあるのが2本。これも戦後70年の節目の年だからだろうか。自由に野球をプレーし、観戦できる幸せを噛みしめたい。

関連記事

トピックス

元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
日本テレビの杉野真実アナウンサー(本人のインスタグラムより)
【凄いリップサービス】森喜朗元総理が日テレ人気女子アナの結婚披露宴で大放言「ずいぶん政治家も紹介した」
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬の宮城野親方
元・白鵬の宮城野部屋を伊勢ヶ濱部屋が“吸収”で何が起きる? 二子山部屋の元おかみ・藤田紀子さんが語る「ちゃんこ」「力士が寝る場所」の意外な変化
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン