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【書評】 「日本のドン」の借金と汚名を引き受けた男の執念

【書評】『宿命の子  笹川一族の神話』高山文彦/小学館/本体2500円+税

高山文彦(たかやま・ふみひこ):1958年宮崎県生まれ。法政大学中退。『火花 北条民雄の生涯』(七つ森書館刊)で大宅壮一ノンフィクション賞、講談社ノンフィクション賞。『どん底 部落差別自作自演事件』(小学館刊)、『いのちの器 臓器は誰のものか』(角川文庫)など著書多数。

【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)

 本書を読まなければ、私(評者)はかつて繰り返されたマスコミ報道の影響から抜け出せないまま、本書の主人公であり、かの笹川良一(1899~1995)の跡目を継いで日本財団(旧・日本船舶振興会)会長の座にある笹川陽平(1939~)に対し、偏見のこもった冷ややかな視線を送り続けただろう。

 陽平は、良一の私生児である3人兄弟の末弟として生まれた。母と命からがら東京大空襲を生き延び、戦後は他人の家に居候して肩身の狭い思いを強いられ、16歳で良一宅に移り住んでからも奉公人扱いされた。その後いったん兄(元衆議院議員笹川堯)の籍に入り、再び母の籍に戻り、41歳のとき兄弟の中でただひとり良一の籍に入った。生まれ育ちはかくも複雑であり、恵まれていたわけでも、将来を約束されていたわけでもない。

 良一は戦前、国粋大衆党を結成し、戦時下に衆議院議員を務めた。戦後はA級戦犯容疑で収監されたが、不起訴で釈放。その後、モーターボートレースを創始し、売り上げの一部を受け取る日本船舶振興会を設立し、慈善事業を始めた。

 陽平は、そんな良一から2つの負の遺産を引き継いだ。ひとつは借金40億円。良一は慈善事業で一切の報酬を得なかったばかりか、晩年は詐欺にあうようにして財産をむしり取られていた。

 もうひとつは汚名。良一は大政翼賛会の推薦を受けずに衆議院議員に当選し、翼賛選挙の撤廃を求め、言論統制を強化する法案に最後まで反対するなど、実は反体制だった。だが、戦後のマスコミは、自らが戦争に協力した後ろめたさから業績を正当に評価せず、〈「A級戦犯」「右翼の大物」「日本のドン」などといったフレームアップ攻撃〉を続けた、と著者は書く。

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