ビジネス

ピケティ教授も『ハウス・オブ・デット』も日本には合わない

 経済の専門書でありながら世界的ベストセラーとなっている『21世紀の資本』(みすず書房)に続き、経済書のベストセラーになると評されているのが『ハウス・オブ・デット(House of Debt=借金漬けの家)』だ。人気を集める2つの著作だが、どちらも日本にはまったく当てはまらないと大前研一氏はいう。なぜ、当てはまらないのかについて大前氏が解説する。

 * * *
 世界的なベストセラーになっている『21世紀の資本』の著者トマ・ピケティ教授の「日本は格差が拡大している」という主張に対し、日本は資本収益率(r)が経済成長率(g)と同じくらい低いことなどを指摘して私は異議を唱えたが、今の日本経済を理解していないのはピケティ教授だけではない。

『21世紀の資本』に続くベストセラー“最右翼”とも評される、プリンストン大学のアティフ・ミアン教授とシカゴ大学のアミール・サフィ教授の共著『ハウス・オブ・デット』もそうだ。

 同書は、アメリカの「サブプライム住宅ローン(信用度が低い消費者向け住宅ローン)危機」のデータを収集して分析し、高額な住宅ローンを組んで家を購入した人たちは住宅価格が下落してくると消費を厳しく切り詰めなければならなくなっていっそう不況が深刻になるということを立証した上で、中低所得層の借金増加が経済の不安定を招くと主張している。

 そして、そういう現象を防ぐための方策として、住宅価格の下落時に貸し手は返済額の減額を認め、上昇時には価格の上昇分を得る「SRM(責任抵当の分担)」という仕組みを提唱している。これはまさに学者による“机上の空論”で、あまり現実的とは思えないが、そもそも『ハウス・オブ・デット』の前提からして今の日本には全く当てはまらない。

 現在、アメリカは景気が上向き、ダウ平均株価が史上最高値を更新している上、米ドルは独歩高で、企業の設備投資や住宅をはじめとする個人消費も拡大している。なかでも自動車は、ガソリン価格の下落もあって大型車を中心に売れ行きが伸びている。2014年の新車販売台数は1652万台で2007年の1615万台を上回り、サブプライム危機前の水準に回復した。今年1月も前年同月比で13.7%増加し、好調を持続している。

 ただし、それに伴いサブプライム向け自動車ローンが急増し、他の分野のサブプライム向けローンも高水準に達しているため、“第二のサブプライム危機”が危惧されている。つまり、前回住宅で起きたサブプライム危機の教訓から何も学んでいない、今度は自動車で起きるというわけだが、言い換えれば、ことほどさようにアメリカは「欲望過剰社会」なのである。

関連記事

トピックス

「木下MAOクラブ」で体験レッスンで指導した浅田
村上佳菜子との確執報道はどこ吹く風…浅田真央がMAOリンクで見せた「満面の笑み」と「指導者としての手応え」 体験レッスンは子どもからも保護者からも大好評
NEWSポストセブン
石破首相と妻・佳子夫人(EPA=時事)
石破首相夫人の外交ファッションが“女子大生ワンピ”からアップデート 専門家は「華やかさ以前に“上品さ”と“TPOに合わせた格式”が必要」【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ノックでも観客を沸かせた長嶋茂雄氏(写真/AFLO)
《巨人V9の真実》王貞治氏、広岡達朗氏、堀内恒夫氏ら元同僚が証言する“長嶋茂雄の勇姿”「チームの叱られ役だった」
週刊ポスト
中村芝翫の実家で、「別れた」はずのAさんの「誕生日会」が今年も開催された
「夜更けまで嬌声が…」中村芝翫、「別れた」愛人Aさんと“実家で誕生日パーティー”を開催…三田寛子をハラハラさせる「またくっついた疑惑」の実情
NEWSポストセブン
現場となったマンホール
【埼玉マンホール転落事故】「どこに怒りを…」遺族の涙 八潮陥没事故を受けて国が自治体に緊急調査を要請、その点検作業中に発生 防護マスク・安全帯は使用せず
女性セブン
ロシアのプーチン大統領と面会した安倍昭恵夫人(時事通信/EPA=時事)
安倍昭恵夫人に「出馬待望論」が浮上するワケ 背景にある地元・山口と国政での「旧安倍派」の苦境
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《秘話》遠野なぎこさんの自宅に届いていた「たくさんのファンレター」元所属事務所の関係者はその光景に胸を痛め…45年の生涯を貫いた“信念”
週刊ポスト
政府備蓄米で作ったおにぎりを試食する江藤拓農林水産相(時事通信フォト)
《進次郎氏のほうが不評だった》江藤前農水相の地元で自民大敗の“本当の元凶”「小泉進次郎さんに比べたら、江藤さんの『コメ買ったことない』失言なんてかわいいもん」
週刊ポスト
川崎、阿部、浅井、小林
女子ゴルフ「トリプルボギー不倫」に重大新局面 浅井咲希がレギュラーツアーに今季初出場で懸念される“ニアミス” 前年優勝者・川崎春花の出場判断にも注目集まる
NEWSポストセブン
6年ぶりに須崎御用邸を訪問された天皇ご一家(2025年8月、静岡県・下田市。撮影/JMPA)
天皇皇后両陛下と愛子さま、爽やかコーデの23年 6年ぶりの須崎御用邸はブルー&ホワイトの装い ご静養先の駅でのお姿から愛子さまのご成長をたどる 
女性セブン
「最高の総理」ランキング1位に選ばれた吉田茂氏(時事通信フォト)
《戦後80年》政治家・官僚・評論家が選ぶ「最高の総理」「最低の総理」ランキング 圧倒的に評価が高かったのは吉田茂氏、2位は田中角栄氏
週刊ポスト
スーパー「ライフ」製品が回収の騒動に発展(左は「ライフ」ホームページより、みぎはSNSより)
《全店舗で販売中止》「カビだらけで絶句…」スーパー「ライフ」自社ブランドのレトルトご飯「開封動画」が物議、本社が回答「念のため当該商品の販売を中止し、撤去いたしました」
NEWSポストセブン