一方、元気がないのは、日本からベトナムに来る観光客。彼はもともと日本語を活かした日本人専門ガイドだった。以前は毎週のようにお客さんをカラオケクラブ(アオザイを着たホステスが隣に座る)に案内したものだったが、「1年くらいはそういうところにいっていない」。
たまに来るのは年配客で、レストランに入り、料理を注文したあと1ドルのお茶を我慢する。
「日本だと水はタダで出てくるので、有料なのが嫌みたいです」
私自身の経験では、ここ数年、ベトナムで日本人の若い観光客を見かける機会が少なくなった。たまに女性はまだいるが、男性は本当に少ない。
若者人口が減っている面もあるし、お金がないといわれればそれまでなのだが、何かを節制して、無理をしてでも若いときに外国を見るべきだと思う。それも現地に友人ができるくらいハマッてほしい。ベトナムでなくてもどこでもいい。自分とその国が一緒に歳を重ねていくというのは、実に楽しい。マザーカントリー以外にもうひとつ「母国」を作って置くと、人生を二つ生きている気がする。
別のベトナム人の友人にも5、6年ぶりぐらいに会った。
私は、ホテルまで彼に迎えに来られ、ボーイから強奪したヘルメットを被せられ、彼のバイクの後ろに乗せられ、
「神田さんをこうして乗せるのは何年ぶりですかね」
と笑顔で懐かしがられ、魚屋で酒のツマミのイカを買われ、せめてビール代くらい払わせてよと出したお金を押しとどめられ、彼の姉の家に招待され、次々とビールの缶を開けられ、彼の甥とか姪のダンナとか、初めて会うベトナム人に「先生」とかしずかれ、料理を取り分けられ、二口飲めばビールを注がられ、グラスをあおり、タバコをふかし、息をすることしか許されなかった。
私は彼に何かをしてあげたことがない。何年音信不通でも昨日別れた親友のように扱う、この国の人々の厚情に涙が止まらなかった。