中国はAIIB主導国であり、両者の思惑と利害が完全に一致したのだ。グエン氏は加入が正式に決まると、これまでの遺恨を表に出さず、押っ取り刀で北京に駆けつけたのである。
目の前の利益に釣られて、外交的な威厳を損じたのはベトナムばかりではない。3月中旬、ミャンマー軍は少数民族武装勢力の掃討を目的に中国国境付近を空爆。雲南省のサトウキビ畑で作業中だった中国人住民5人が死亡、9人が負傷した。
ミャンマー側は当初、遺憾の意を表明しつつも国軍の関与を否定したため、中国国防省は「今後同様の事態が生じれば断固、果断なる措置で対応する」との談話を発表。国境付近に中国軍が集結し緊張が高まった。
しかし、4月2日にはミャンマーのワナ・マウン・ルウィン外相が「大統領特使」の肩書で急きょ訪中し、王毅外相と会談。この事件について、「ミャンマー国軍機による誤爆だった」と認め正式に謝罪した。北京の外交筋は「事態を紛糾させれば、両国の紛争に発展し、ミャンマーのAIIB参加は露と消えることを懸念したのだろう」と解説する。
※SAPIO2015年6月号