再ブームの歌声喫茶。最近では若い世代の客も増えてきた
「20代の頃に流行っていて、仕事が忙しくて長年行けず、定年を迎えて時間ができて、女性も子育てが落ち着いて、若い頃を思い出して懐かしくなって来る人が多い。団塊世代にとっては、昔を思い出して元気をもらう場であり、若い人たちにとっては、初めての新しい感覚が魅力なんじゃないかなと思います」
こう語るのは、かれこれ10年、週3回、年150回は通っているという神奈川県の60代の男性。「みなさん歌の好きな人たちばかりですよ。カラオケなどで1人で歌って聴かせるよりも、みんなで歌い合うのが好きなんですね。メロディーに親しみがあってグッとくるところがいいんです。今では趣味をはるかに超えて、生活の一部です」と力説する。
「カラオケよりも楽しい」という声は、若い世代にも多い。
「初めて体験した時に、自分が知っている歌を歌う懐かしさと共に、当時の記憶や気持ち、風景などが思い出されて感動しました。みんなで歌うのは、なんともいえず楽しい。自分が知らない歌でも、『こんなに良い歌があったんだ』と知る楽しみがある。自分のリクエストが採用された時にはうれしくて、癖になります(笑い)」(30代女性)
友達グループや夫婦で来る人もいるが、多くは1人で訪れる。「ふらっと来てふらっと帰れる気軽さ、自由に来られるのがいいんです」(60代男性)というだけに、気ままに参加できるのが魅力。かつては歌声喫茶で出会った若者たちがそのまま結婚という例も多かったようだが、今は大人の友達作りができる社交場にもなっているようだ。
歌のジャンルは、日本のフォークソング、ロシア民謡、歌謡曲、童謡、唱歌、アニメソング、シャンソン、カンツォーネなどバラエティに富んだ中から、客のリクエストに応じて司会者が構成や流れを考えてセレクト。553曲収録されたオリジナル歌集を手に、みんな恥じらうことなく、口を大きく開けてはつらつと歌い続ける。
1ステージは45分。司会者が集まったたくさんのリクエストの中から起承転結やその場の雰囲気に応じて歌を選び、12、13曲を歌い続ける。間に20分休憩をはさんで、ステージを繰り返す。リクエストは何曲しても構わないが、全て歌われるとは限らない。採用されるよう印象的なコメントを添えるなど、みんな一生懸命だ。
「最近の一番人気は、NHKの『花子とアン』の中で歌われた『広い河の岸辺』です。みんなで歌えるので、『歌声』の中では結構流行っている曲なんです」(斉藤さん)
歌われるのは、例えばある日は『蘇州夜曲』『君をのせて』『夏の思い出』『少年時代』『カントリーロード』『思い出がいっぱい』など、誰もが知る歌がわりと多い。若い世代が増えていることから、オリジナル歌集には若い人向けのレパートリーが織り込まれ、『嵐』の歌まである。若い世代には、一青窈の『ハナミズキ』やアンジェラ・アキの『手紙』が人気だという。
マイクの前に立って歌うのは自由だが、マイクを握って歌ってはいけないというのが暗黙のマナー。歌が採用されなかったと文句を言うのもNGだ。料金は、『ともしび』では、いわゆるテーブルチャージとなる『うたごえチャージ』が864円(税込み)。これに頼んだ飲食代で、時間制のカラオケ店よりもリーズナブルにすむところも人気のようだ。
世代を超えて若い人たちに繋がる縦の広がりと、全国的に歌い合う集まりが増えつつある横の広がりとで、新しい展開を見せている歌声喫茶。ブームはまだまだ続いていきそうだ。