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ブラックバイト 大学の教員と新聞記者には語ってほしくない

「ブラックバイト」がニュースなどで大きく取り上げられるようになった。たしかに重大な問題だ。だが、伝える側も「当事者意識」を持つべきではないだろうか。コラムニスト・オバタカズユキ氏が斬り込む。

 * * *
 昨年後半からポツポツ目にするようになって、このところやたらめったら流通している造語がある。「ブラックバイト」である。

「ブラックバイト」の意味はざっくり「ブラック企業」のアルバイト版と考えて差し支えなさそうだが、もうちょいしっかり押さえておくには、名づけ親である中京大学国際教養学部教授の大内裕和氏の定義を知っておくといい。大内教授はこう言っている。

〈学生であることを尊重しないアルバイトのこと。フリーターの増加や非正規雇用労働の基幹化が進むなかで登場した。低賃金であるにもかかわらず、正規雇用労働者並みの義務やノルマを課されたり、学生生活に支障をきたすほどの重労働を強いられることが多い〉

 平易な文章なので特に説明も必要ないだろうが、具体的には、どうせ学生は無知で無力なちょろい連中だからと、雇用者が残業代を不払いしたり、売れ残りの商品を買わせたり、その日はゼミがあるからムリですと言われてもシフトに組み入れたり、パワハラ、セクハラをやりまくったり、そういう困った職場のアルバイトを示している。

 たしかにアルバイトで忙しく、大学にあまり来なくなり、そのまま中退に、といった話を以前よりよく聞く。貸与式の奨学金制度で学費を払っている学生は増えており、その場合は生活費相当分をバイトで稼がねばならないケースが多い。だから、どんなに大変でもバイトをせざるを得ない大学生もきっと増えている。「苦学生」はもう死語だが、最下層労働者として苦しんでいる学生はけっこうたくさんいるだろう。

 そういう時代にあって、「ブラックバイト」が大きな社会問題だという。その問題性を数字で表すような統計はないが、飲食業をはじめとして、大学生のバイト先になりやすい会社や店舗の少なからずは長きデフレ不況からいまだ脱していない。学生を都合よく搾取してどうにか成り立っているところは多いはずだ。だから、「ブラックバイト」の存在の指摘には社会的意義がある。

 しかし、なのである。私はこの「ブラックバイト」をめぐるもの言いを読んだり聞いたりするたびに、もやもやとしてしまう。どうも釈然としないものがあるのだ。もう御託はたくさんだ、と言いたくなる。

「ブラックバイト」を語る(伝える)発信源は、大きく次の三通りに分かれると思う。

 まず、もっともたくさんの情報と言説を発信してきたのは、「ブラック企業」を広めたNPO法人POSSEになんらか関わっている、社会活動家や弁護士や研究者などだ。彼らは、「ブラックバイト」の実態と背景の説明とともに、学生個人が巻き込まれた場合はどうしたらよいか、道案内をしてきた。そのネタ本ともいえる小冊子のデータは「ブラック企業対策プロジェクト」というサイトで配布されており、題名の「ブラックバイトへの対処法」で検索すればすぐに見つかる。実践的な内容がよくまとめられており、個人情報の登録など一切なしで無料ダウンロードできるから、関心のある向きはどんどん利用したらいい。

 私も、そうした彼らの活動自体には一目置いている。彼らには別段もやもやしない。ただし、彼らの活動のシンパなのか、ただ流行に乗りたいだけなのか、ここぞとばかりに正義の「ブラックバイト」論を展開する学者たちには、うんざりしている。なぜか。なぜ学者だとダメなのか。

 理由は簡単だ。彼らはたいてい「ブラックバイト」の雇用者を批判する。あるいは、学費を払えない学生が頼らざるを得ない貸与式の奨学金制度の杜撰さを指摘する。だいたいそれでザッツ・オールなのだ。おいおい、あなた方がもっともよくご存知であるはずのもう一つの問題になぜ触れないのか。私は解せない。学生がアルバイトに励まざるを得ない大きな原因の一つは、むやみやたらにバカ高い大学の学費のせいだろう。そのバカ高い学費のおかげで安定した高給を得ているのはあなた方に他ならないだろう。

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