簡単に概要を説明すると、滋賀県大津市の寺を舞台にした出家詐欺で、1億3000万円もの大金を金融機関からだまし取った罪で17人もの関係者が逮捕された。多くの宗教法人は、経営のピンチを迎えているといわれ、活動せずに休眠状態に陥っているところも多い。
その宗教法人の存続のピンチを利用した詐欺が行なわれているという事実だけで、30分の番組は十分作れたはずである。番組を劇的に演出したいがために3つの過ちを犯した、と僕は意見を述べた。
一つ目は、ブローカーが登場するが、ブローカーであることの裏付けがない。二つ目は、ブローカーから紹介された多重債務者とされた男性は、リポートしたNHK記者と8年前から知り合いだった。三つ目は、ブローカーと債務者が会う場面は、いかにも秘密裏にカメラを回しているように見せている。
この三つは、大きな問題である。このような作為的演出は、番組内で常態化している可能性も考えられる。
演出か、ねつ造か。過剰な演出ではなく、むしろあえて「やらせ」として受け止め、今後どのように対処するのかが大事、と苦言を呈した。
すると担当者からは、「制作の基本姿勢を明記した“放送ガイドライン”から外れている。反省しています」という返答があった。
ブローカーと債務者のいかにも決定的な瞬間を撮ったかのようなシーンが放送されたが、実はほかの番組でも似たような場面をよく見かける。
匿名や覆面インタビューは“いかにも”な臨場感があるので多用されがちだ。しかし、僕は証言者のプライバシーを守らなければいけない、ごくごく限られたケースに限定すべきだと思う。視聴者もそんな手法が胡散臭いのは気づいている。
これら一連の動きをみたうえで、総務相はNHKに対し、放送法に抵触するとして厳重注意の行政指導を出した。
※週刊ポスト2015年7月3日号