角栄は国土や社会のひずみを改めるために、日本列島改造論を掲げて全国に道路をつくり、トンネルを掘り、国土開発を推し進めた。そうしたやり方は“土建屋政治の元祖”のように批判されるが、今の政治家の公共事業バラマキとは異なっていた。大都市に集中した産業を地方に分散させて格差をなくすという原則を打ち出し、産業再配置と、こんな社会ビジョンを描いていた。

〈二十代、三十代の働きざかりは職住接近の高層アパートに、四十代近くになれば、田園に家を持ち、年老いた親を引き取り、週末には家族連れで近くの山、川、海にドライブを楽しみ、あるいは、日曜農業にいそしむであろう〉(著書『日本列島改造論』より)

 これほど明快な社会ビジョンを国民に提示することができた政治家は後にも先にもいない。

 外交面でも、角栄は戦後日本の課題だった日中国交正常化を成し遂げ、エネルギーをアメリカの石油メジャーに依存しない独自のアジア資源外交を展開した。角栄の外交思想を端的に表わした言葉がある。

「人の悪口を言ったり、自分が過去に犯した過ちを反省せず、自分がすべて正しいとする考え方は国の中でも外でも通用しない」

「主張する外交」を掲げながらも芳しい成果を残せない安倍首相は、この言葉をどう聞くのだろうか。国民が今「角栄の時代」に郷愁を感じるのは、偶然ではない。

撮影■山本皓一(報道写真家):1943年、生まれ。2004年、講談社出版文化賞写真賞を受賞。主な著書に『日本人が行けない「日本領土」』(小学館)など。山本氏の秘蔵写真で角栄の人生を辿る『人を引きよせる天才 田中角栄』(笠倉出版社)が発売中。

※週刊ポスト2015年7月10日号

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