ほの暗くシンと静まり返った貯蔵庫には、樽が積み上げられていた。「マッサン」で描かれた創業時に使われていたという「最初の樽」もあった。ジャパニーズウイスキーの人気は今や絶好調。さぞかしメーカーは浮かれているだろうと思いきや、佐々木氏は意外にも厳しい顔。
「在庫管理の苦労が尽きません。十年以上熟成して時間が風味をつくり出す。その一方で、時間は壁にもなります。たとえ今人気でも、原酒の量が限られていますから簡単には増産できないのです」
考えてみれば、今国際的に評価されている「山崎」「響」「白州」の原酒は全て10~20年前に仕込んだもの。20年前といえば「ウイスキーの売り上げがどんどん落ち込んでいた時期」と聞いて、驚いた。
「売り上げのピークは1983年。以後、2008年まで右肩下がりに落ち込みました。それでも投資をやめず質の高い原酒を仕込み続けて今、やっと花開いているのです」
一番苦しい時に、一番おいしい酒を仕込むことができた。それがサントリーのDNAだったのだ。
「単なるビジネスを超えて、本気とロマンがなければウイスキーづくりはできない。それが私たちの誇りです」
※SAPIO2015年8月号