●ドラマの社会的役割を存分に果たす

 登場人物に感情を重ねあわせ、「もし私だったらどうするだろう」と他人の生き様や葛藤を見ながら想像する。「そうそう、そういう迷いってあるよね」と共感する。

「この一言を言ってもらえたらどんなに嬉しいだろう」と願望を抱く。他人の物語の中に、自分の断片を見つけて、自分の生き方を探る。視聴者にとってドラマを見る大きな楽しみはそのあたり。感情移入、共感といったドラマの基本的な役割を、この『美女と男子』は果たしている。

 その象徴的存在が、主人公・沢渡一子だ。簡単には笑わない。媚びない。歯を食いしばる。粘る。諦めない。見えない壁と格闘する。不機嫌な主人公だが、しかし見ていてちっとも不快でなく、清々しい。「頑張れ」と応援したくなる。ドラマを見て「明日も頑張ろう」と勇気が湧いてくる。

 一言で表せば、「不機嫌の美しさ」。仲間由紀恵の格闘する演技が、働く女性たちにとって共感できる人物像を作り出している。緻密な計算の上に練られた脚本、台詞だけに頼ることなく感情を伝える細やかな演出、そして仲間由紀恵をはじめとする役者たちの演技力。このドラマの秀逸さは、本・演出・役者の三位一体がなせる技だ。

 実は日本のドラマでは珍しい全20回の長丁場。全体を3部に分け、第1部「試練編(1 – 8話)」、第2部「ステップアップ編(9 – 14話)」、第3部「サクセス編(15 – 20話)」で構成されている。海外ドラマに見られるような長編の物語作りの工夫が随所に生きている。

 4か月前、ドラマがスタートした時、コラムの中で私は「笑わない仲間由紀恵の芝居に傑作の予感」と書いた。残りはあと3回、実に的確な予感だったなと自画自賛したくなような、優れた幕切れを期待したい。

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