小林:残念ながら、そのあとの反応がまた極端に「自尊史観」のほうに走っちゃって、日本は一切悪くないと。わしが子供のころは、ただ単に戦争というものは懐かしい思い出で、「娯楽」にもなりうるものであったと。その次はどんどん「自虐史観」になって、日本の過去はすべて悪だということになっちゃった。
で、『戦争論』以降は、とにかく「日本人は誇らしい、素晴らしい民族だ」みたいな話になってしまったっていうことで、どんどん揺れ動くんですよ。結局、真ん中に止まるっていうことがないな、この日本人っていうものは、という感覚に今、なってしまってるということですね。
呉:戦争の実相っていうのは単純なものじゃないと。今回の『卑怯者の島』なんかにもあるように、みんな勇猛果敢だったわけでもないし、表面的に勇猛果敢だった人でも、心の中には葛藤を抱えているというのは、当然、あるわけですね。だから、そういう戦争の実相自体も、一つには、世代を経ることによってわからなくなることもある。
もう一つは、意図的に、当時の時代、風潮、イデオロギーによって、ある側面が隠されていくということも当然、あるわけですね。それを小林さんがいろいろなかたちで世間の風圧を受けながらもお描きになって、問題提起したっていうのは、私は非常に重要だと思います。
※SAPIO2015年9月号