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【著者に訊け】牧久氏 新作『満蒙開拓、夢はるかなり』を語る

【著者に訊け】牧久氏/『満蒙開拓、夢はるかなり 加藤完治と東宮鐵男』(上・下)/ウェッジ/各1600円+税

 彼らにとって右の反対は左ではなかった。キリスト教と神道、日本人と匪賊もそう。あくまで目指すのは日韓満蒙漢の五族協和であり、王道楽土の建設だった。

『満蒙開拓、夢はるかなり』は、かの悪名高き満蒙開拓事業の中心人物、加藤完治と東宮鐵男の実像を追った労作だ。悪名と書いたが、満州国軍政部で入植地確保等に奔走した東宮が〈受け入れ側の“満州移民の父”〉なら、茨城県内原にあった日本国民高等学校校長として多くの若者に開拓精神を説いた加藤は〈開拓の母〉と言え、今なおその人柄に心酔する者は少なくない。

 だが戦後、東宮は張作霖爆殺事件(昭和3年)の実行犯として東京裁判で指弾され、一方〈青少年義勇軍という“侵略の先兵”を育て満州に送り込んだ〉として公職から追放された加藤も、〈うらぶれた“農聖”〉などと叩かれた。あえて言うなら彼らはあまりに純粋すぎ、結果が惨すぎたのである。

 著者・牧久氏には元国鉄総裁・十河信二の生涯を描いた前著『不屈の春雷』があり、本書もその延長にある。同書を読んだ東宮の係累から連絡があり、戦後テロリスト扱いされた東宮の真の姿を書いてほしいと戦前の資料を託されたのだ。同じ頃、加藤の四男・弥進彦(やすひこ)氏からも〈父の実像を先入観なく客観的に書いてくれるなら〉と資料一式を託される。それほど満蒙開拓の実像は今に伝えられていないということでもある。

「戦後は一転して全否定される中、遺族は口を噤むか、何も語らせてもらえなかったんです。例えば東宮は昭和12年の杭州湾上陸作戦で戦死しますが、これは建国の精神を忘れた満州国を痛烈に批判した抗議の自死だと、盟友の山田與四郎は書いている。一方、加藤も戦後は白河に入植して引揚者の受け入れや食糧難解消に尽力した。彼らは本当に侵略主義者だったのか、ひいては石原莞爾をどう評価すべきかを私は今一度問いたかった。

 石原は満州事変の首謀者としてとかく悪玉扱いされますが、対中戦争に最も反対したのも石原なんです。私は右翼でも歴史修正論者でもないが、特定の史観で歴史を裁くのはその時代を生きた人に失礼ですから」

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