山下:これを含めた12点はニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵の作品で、今回が日本初公開です。20年以上前にロンドンの大英博物館で開かれた「暁斎展」も大変な評判を呼びました。ところが意外にも、重要文化財に指定された作品は一つもありません。『大和美人図屏風』などはすぐにでも指定すべきです。
酒井:衝撃的だったのは、『月に狼図』ですね。生首を咥えた狼が近寄りがたい存在感を放っています。それにしても、なんてオドロオドロしいんでしょう。
山下:9歳の時に神田川で流れてきた生首を見つけたんですが、「生首なんてめったに描けるものじゃない」と、写生するために自宅に持ち帰って親に叱られたというのだから凄まじい。「記憶にある風景をすべて絵にすることができる」という稀有な才能を持っていた暁斎を象徴する作品のひとつですね。
◆山下裕二(やました・ゆうじ):1958年生まれ。明治学院大学教授。美術史家。『日本美術全集』(全20巻・小学館刊)の監修を務める。美術史の専門家でありながら親しみやすい語り口と斬新な切り口で日本美術を応援する。
◆酒井千佳(さかい・ちか):1985年生まれ。京都大学工学部建築学科卒業後、北陸放送、テレビ大阪のアナウンサーを経てフリー。気象予報士として『Oha!4 NEWS LIVE』(日本テレビ系)、『情報ライブミヤネ屋』(読売テレビ)に出演中。
【『画鬼・暁斎──KYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドル』展】
河鍋暁斎と弟子のコンドルの作品を前後期合わせて約130点展示。米・メトロポリタン美術館所蔵の水墨画が約120年ぶりに里帰りするほか、初公開作品などを展示。東京駅徒歩5分の三菱一号館美術館にて9月6日まで開催中。
撮影■太田真三
※週刊ポスト2015年9月4日号