第2話の主人公は元大手商社マン〈小泉武雄〉。定年後、妻に突然死なれた彼は今後を考えて婚活パーティに参加するが、参加女性に学歴や海外赴任歴を滔々と語り、相手の話は聞こうともしない。
結局、誰からも指名されず、帰りに寄った居酒屋では同じく負け組のガサツな女〈西条鈴音〉にダメ出しまでされた。だが後日、彼は意中の〈石脇衿子〉と偶然再会。思いがけず関係を持つが、美女には当然、棘も裏もあった……。
考え過ぎたり、見て見ぬふりをしたり、人とはつくづく困った存在だ。最終話『七夕の旅』の麻衣子にとって、最近ボケ始めた祖父は婚約者に逃げられる原因ともなった邪魔者だった。が、会津出身の祖父が〈あんつぁ〉とうわ言に詫びる兄の消息を探すうち、70年前、戦争に引き裂かれたある恋の軌跡が、彼女自身をも変えていくのである。
「90を過ぎて今まで会えなかった人に会いに行けたり、ホント、生きてさえいれば何とでもなるんですよね。ただ『俺はこのままでいい』と頑なに言う人も当然いて、うまく立ち回れない人にこそ、私は一緒に考えませんかと呼びかけていきたい。
最近は演劇手法をコミュニケーションに生かすワークショップなども各地で開かれていて、家庭語でも会社語でもない第三の言葉を学び、地域に友達を作ろうとするオジサンもいる。つまり人は幾つになっても成長できると私は思うし、ささやかでも確かな成長を、クスッと笑える物語に書いていきたいんです」
発見し、成長する彼らの向こうに、中澤氏は新しい自分と出会えないまま殻に閉じこもる人々をも見据え、薄皮一枚で全く違う視界のありようを魅力的に描く。全てはそこにある、しかし見ていないだけなのだと、例えば夜空を見上げる間もなかった武雄に、星はいつでも教えてくれるのだ。
【著者プロフィール】中澤日菜子(なかざわ・ひなこ):1969年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒。1988年に不等辺さんかく劇団を結成し、出版社勤務の傍ら活動。出産後は戯曲執筆に専念し、2014年に小説現代長編新人賞受賞作『お父さんと伊藤さん』で小説デビュー。同作は各誌の年間ベスト10等に選ばれ、第2作『おまめごとの島』も好評。戯曲では「ミチユキ→キサラギ」で仙台劇のまち戯曲賞大賞、「春昼遊戯」で泉鏡花記念金沢戯曲大賞優秀賞等を受賞。152cm、B型。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2015年9月4日号