中でも印象的なのが2004年10月の「ど真ん中発言」だ。新日の国技館興行に乱入し、〈てめぇら、この状態が何を意味しているか分かるか。俺は今、新日本プロレスのど真ん中に立っているんだぞ〉と叫んで喝采を浴びた長州は、後に田崎氏にこうこぼすのだ。〈ぼくがど真ん中という言葉を使うときは、業界の“作り言葉”ではなく、自然に出る言葉です。幼少の頃の悔しさ、惨めさみたいなのが言葉になる〉
プロレス生活で得たものは〈人を見る目〉、失ったのは〈家族〉と語る長州だが、猪木に関しては言葉が詰まり、試合中に〈長州、殺せ〉と言われたエピソードを絞り出した。〈本気でリングで死ぬことを求めていたのかもしれない。だからあの人には敵わないんです〉と。
「日本プロレス界のわからなさは、猪木さんのわからなさにも通じる。その掌を出られないという長州さんの掌で僕もまた転がされ、彼の半生を書かされた感じがしないでもありません」
長州にしろ猪木にしろ、幾多の証言が彫塑する肖像は茫洋としていて、何とも掴み処がない。しかしそれもまたプロレスの奥深さであり、魅力の源泉なのだろう。
【著者プロフィール】田崎健太(たざき・けんた):1968年京都市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、小学館に入社。週刊ポスト編集部等を経て1999年退社。ノンフィクション作家に。著書に『CUBAユーウツな楽園』『ジーコジャパン11のブラジル流方程式』『W杯に群がる男たち』『楽天が巨人に勝つ日』『偶然完全 勝新太郎伝』『維新漂流 中田宏は何を見たのか』『ザ・キングファーザー』『球童 伊良部秀輝伝』等。現在、早稲田大学スポーツ産業研究所招聘研究員。178cm、75kg。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2015年9月18日号