そういうことはありましたけど、本当に一番怖いのは野犬だと常々思っています。戦場カメラマンの渡部陽一さんや、それこそショットガンを携帯して旅をしていた写真家の藤原新也さんも言っていますけど。世界のあらゆる場所に、いまだに野犬がいっぱいいるんですよ。この前もタヒチの廃墟で野犬に追われて大変でした。襲いかかってきますし、噛まれて狂犬病を発症したらアウトです。死にます。狂犬病って治らないんです。場所によって、例えばチベットの山奥とかだとワクチンがなかったりもするので致命傷なんですよ。
――オカルト的な場所も多数取材しているそうですが、心霊体験やトラブルが起きたなんてことは?
佐藤:呪いの遺跡と言われる場所で撮影した写真が消えたことはありますが、あとは思い出せるほどの衝撃的な体験はないですね。たぶんそういうものに鈍感だからやってられるんだろうと思います。この前もある取材地で現地人も嫌がる幽霊が出る場所にも行きましたが、なんてことはなくて。「呪われた」とかって、ある種自意識過剰な気がするんですよね。歴史的な場所の生前すごかった人の幽霊がなんで僕ごときにかまうだろうかとか。9割方はこちらの思い込みによる作用なんだろうなとは思います。
あとよく思うのは、そういう場所にたくさん行っているので、何かが起こったとしてもアジアの呪われた場所かもしれないし、アフリカの呪術師かもしれないし、何に呪われてるかが、もはやわからないですよね。
――とても理性的ですが、非合理的なものを追うのはなぜでしょうか?
佐藤:もともと美大にいたんですが、写真を含めたアートにしても、幽霊やUFOにせよ、宇宙にせよ、答えがないとされるものに子供の頃から興味がありました。世の中のある程度のことって論理立てて考えることができると思うんですけど、幽霊みたいな非合理的な存在が今も信じられるのはなぜなのかということが気になるんです。現代だと、UFOや幽霊は信じないという人は世の中多いと思うんです。でも例えばお守りはゴミ箱に捨てられないとか、日本人に限らず神秘的なものを無視できない感性は現代でも根っこの部分にある。それがなぜなのかが、すごく気になるんです。僕自身はむしろすごく合理的ですし、旅行や撮影も効率的にこなす方なので、結局、非合理的なことを合理的にやるのが好きなんだと思います。
【佐藤健寿(さとう・けんじ)】
武蔵野美術大学卒。フォトグラファー。UFOや雪男などのミステリーや、世界各地の“奇”なものを対象に、博物学的、美学的視点から撮影、取材、執筆を行う。これまでに世界約90か国を訪れている。ベストセラーとなった写真集『奇界遺産』『奇界遺産2』(エクスナレッジ)のほか、近刊に『世界の廃墟』(飛鳥新社)など。世界最大の人工衛星企業、米デジタルグローブ社とコラボレーションした新刊『SATELLITE(サテライト)』は9月18日発売。