Aさんのもとを離れ、再び川べりで暮らし始めた加村さん。そんな彼に救いの手を差しのべたのが、群馬県内で複数の福祉施設を運営する社会福祉法人『三和会』の藤澤敏孝さんだった。
藤澤さんが運営する施設で暮らすことになった加村さん。そこで出会ったのが、施設の職員として働いていた保嶋のり子さんだった。
「理事長から加村さんの身の回りの世話を頼まれた時は、正直、自分にできるのかと不安になりました。洞窟でずっと暮らしていた人なんて、自分には想像できませんでしたから」(保嶋さん)
保嶋さんの不安は的中した。加村さんは頻繁に施設を抜け出し、理事長の紹介で建設現場で働くものの、たびたびトラブルを起こした。
「加村さんは幼少期に両親から虐待され、学校でも激しいいじめにあっていました。人との間に居場所を求めながらも、どうしても人に対する不信感や恐怖感を拭うことができなかったんです」(施設関係者)
しかし、保嶋さんは加村さんが逃げることを許さなかった。逃げ出そうとする加村さんを何度も何度も連れ戻し、「逃げちゃダメ!」と叱咤した。
「自転車に乗って山へ行こうとした時、走って追いかけてきた保嶋さんがそのまま体当たりして、おれを捕まえたんだ。その時の保嶋さんの必死な顔を見て、はじめておれは生きていてよかったって思ったんだ」(加村さん)
加村さんは次第に心をひらいていった。保嶋さんや理事長、施設の職員や利用者たち…。みんなの笑顔が見たくて、たったひとりで施設に広大なブルーベリー畑を作ってみせた。加村さんは今、自身の経験をもとに、多くの子供たちに野山で遊ぶことの楽しさを教えたいと夢みているという。
※女性セブン2015年9月24日号