世界では、同盟国であるかどうかなど関係なく日々、諜報活動が行なわれている。実際に、アメリカとイスラエルは政治・外交の上では日米以上に深い関係にあるが、CIAとモサドはお互いに激烈な諜報活動を繰り広げている。日本はこうした世界の常識がまったくわかっていないから、やられ放題になってしまうのだ。
今回アメリカが盗聴していた日本のターゲットは、官房長官秘書官、経済産業大臣、財務省、内閣事務局の交換台、三菱商事の天然ガス担当部署、三井物産の石油担当部署などだった。さらに、日銀総裁の電話や日銀職員の自宅の電話なども盗聴されていた。
ある大臣は記者たちを前にオフレコで「そこまでやるのか。卑怯だ」と憤っていたという。が、NSAやCIAは「そこまでやる」のだ。「卑怯だ」というのも間違っている。情報を簡単に奪われるほうが間抜けなのである。悔しかったら諜報機関を設けてみろと言いたい。もっとも今の日本に世界を網羅する諜報機関を作れるわけはないが。
メディアの指摘も的外れだ。新聞各紙は、今回の盗聴問題に対する日本の反応を「抑制的」だと書いた。2013年にドイツ首相のメルケルの携帯電話がNSAに盗聴されていたことが判明した際は、メルケルがオバマに直接強く抗議した。それに比べて「遺憾の意」を表明しただけの安倍政権は「抑制的」だという報道である。
だが、メルケルは自らが常に盗聴・情報収集の対象になっていたことなど百も承知で、直接抗議したのである。安倍は今回、「あろうことか同盟国に盗聴されるなんて」と驚き、泡を食って「遺憾の意」を表明したにすぎない。何度も言うが、こと諜報戦では同盟国などないに等しいのだ。
おそらく諜報戦の世界を知らないメディアの記者たちも、「同盟国による盗聴」に驚いたのだろう。本来なら、世界の諜報活動はそこまでシビアに行なわれているという現実を報じたうえで、日本の諜報能力と防諜体制の充実を訴えるべきなのだ。
(文中敬称略)
※SAPIO2015年10月号