肉体もまた人間に残された最後の砦だが、祖父同様日がな天井を見上げ、〈昼も夜もない白い地獄〉と向き合う彼は、事あれば〈じいちゃんなんか、早う死んだらよか〉と言い募る祖父の訴えを聞き流していた自分を反省する。
確かに自分や母に対して〈ありがとう、ごめんね、すんません〉と〈祖父が乱発するそれらの言葉からは価値や意味がほとんど消失している〉。だが〈特攻行きそびれの、おまけの人生にしては上出来だった〉と語る祖父の死の願望だけは本物なのではないか―。
そして介護士の親友から、〈いっぺんに弱らせることだ。使わない機能は衰えるから。要介護三を五にする介護だよ〉と助言された彼は、〈苦痛や恐怖心さえない穏やかな死〉を手助けすべく、究極の作戦を開始する。
「彼は祖父といることで、自分は歩けるだけで凄いと希望を見出す。結局、幸福感や充足感って対人関係でしか得られない気もするんですね。自分は誰かの役に立っているとか誰に比べればマシだとか、比較対象や自分を映し出す鏡を良くも悪くも必要としてしまう」