中身をごく簡単に説明しておくと、企業が成長していくためには持続的に資本効率を高めることが重要で、それには株主である投資家も馴れ合いではなく、適切な関係を構築し直す必要がある。そして持続的な成長が期待できる企業への投資をすべきという提言だ。
これは奇しくも東芝の不適切会計問題(※注)を予見していたかのような内容といえる。そもそも投資に関して「安心」と「安全」は異なるもので、「有名な大企業だから安心」と思っていた東芝が「当期利益」という短期的な利益を追求する余り、“粉飾”としかいいようのない会計操作に走った。結果、株価も暴落し、「安心=安全」ではないことがはっきりとわかった。
【※注:東芝の不適切会計問題/2008年4月から2014年12月までの間、経営トップの関与のもと、組織ぐるみで総額1518億円の利益を水増ししていたことが発覚。歴代3社長が引責辞任した。】
「伊藤レポート」はまさに、「有名な企業だから」とか「当期利益が好調」といった理由で投資しても成功しないと論じているのである。
そして、持続的に資本効率を高めている企業の収益性を図る指標として「ROE(株主資本利益率)」を判断基準として採用している。詳細な説明は省くが、「伊藤レポート」では企業が達成すべきROEの目標を「最低8%以上」としている。それも一時的にROEが高いだけではダメで、持続的に伸びているかどうかを重視している。
加えていえば、ROEを高められるかどうかは経営者の資質にかかっている。自己保身に走り、短期的な利益ばかりを追求するのではなく、将来的にどのような会社にしていきたいのかという持続的な成長を志向する経営者でなければ、ROEはそうそう伸びていくものではない。そのような資質を見抜くのはなかなか難しいが、気になる企業の経営者に関するニュースに目配りしながら、ROEの水準と合わせて投資の判断材料にしていけばいいだろう。
※マネーポスト2015年秋号