きわめつけが、東亜日報系のテレビ局・チャンネルAの「字幕問題」だ。韓国のホテルや流通を担う大企業が私的な理由で混乱をもたらしたことについて、韓国ロッテグループ会長の昭夫氏は、8月11日、謝罪会見を開いた。
昭夫氏はこの会見に、成人してから学んだという韓国語で臨んでいる。翌日放送された同局の時事トーク番組『直言直説』と『ニュースTOP10』は、昭夫氏の言葉に合わせ、拙い発音そのままの字幕をつけたのだ。
例えば、昭夫氏は「経営と家族の問題は別であると考えています」と述べた。ハングルでどのような字幕がつけられたのか。ハングルを解さない読者の方にわかるよう、韓国育ちの人が日本語をしゃべった場合に例えて説明してみよう。
ここに含まれている「家族」の「ぞ」の字と「別」の「つ」の字はハングルに当てはまるものがなく、韓国育ちで日本語の上手くない人が発音すると「カジョク」や「ベチュ」に聞こえることがある。
チャンネルAは、こうした点を強調しようと意地悪く、「ケイエイト カジョクノ モンダイハ ベチュデアルト カンガエテイマス」のような字幕をつけたとイメージしてもらえればいい。もはや揶揄を通り越して「嘲弄」である。
番組中、コメンテーターのキム・テヒョン弁護士が「私は『直言直説』の字幕の実力に感嘆を禁じ得ません。あんなに発音そのままに字幕を上手く付けるなんて!」と悪ノリを重ねるオマケまで付いた。
ちなみに、在日3世で民族学校育ちの筆者は、韓国語で取材や商談、会議の同時通訳もこなす。そんな人間の目から見て、昭夫氏の会見にはむしろ胸を打たれた。発音を揶揄されるのは本人も想定していたかも知れないが、それでいて逃げない姿勢には、経営者の気概を感じた。
しかし、韓国マスコミの論調は違っていた。件の字幕に言及した記事にはほとんど目を通したが、チャンネルAへの批判的な論調を展開しているのは小規模なニュースサイトがひとつだけ。あとは軽くたしなめる記事がわずかに見つかる程度で、多くは客観的な立場を装いつつ「チャンネルAの字幕」をネタ扱いして便乗している。
※SAPIO2015年11月号