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【書評】猿の群れを前にすると落ち着かない気持ちになる人へ

【書評】『サル  その歴史・文化・生態』デズモンド・モリス著/伊達淳訳/白水社/2400円+税

【評者】池内紀(ドイツ文学者・エッセイスト)

 サルは人間にもっとも近い動物である。『裸のサル──動物学的人間像』の、あの警抜な動物行動学者が、たのしげにウンチクを傾けている。日本の有名な「見ざる・聞かざる・言わざる」の三猿にもむろん触れていて、当今は「しざる」が加わって四猿だそうだ。彫り物があげてあるが、四猿目は両手で性器を隠している。

 さらにモリス先生に教えられたのだが、サルマタ、男用のあのパンツは「猿股」と書いて、もともとは赤い下着で「妊娠を祈願して発情期の雌ザルの赤い臀部を模したもの」という。それがどうしてムクツケき男のお尻を覆うしろものになったのだろう?

 人間に近いせいか、サルは楽しむよりも落ち着かない気持にさせられるものだが、本で読む分には、素直に好奇心がひろがっていく。

 これまで柳田国男の『孤猿随筆』などでサルの生態を知った。ふつうボスをリーダーにして群れるものだが、おりおり孤立独行タイプが生まれる。「まぐれ猿」に「独り猿」であって、その生き方を印象深く記憶にとどめてきた。つまるところ人間になぞらえてサルを見ていたが暗黙のうちにサルを下等動物と見て、情緒的に人間化してみたわけだ。

 モリスのサル観は明快である。「サルが人間より優れているとか劣っているといった見方をするのではなく、単に違うと見るべきなのだ」

 だからこそその生態・文化を、こんなに自信をもって、いきいきと語ることができる。人間の赤ん坊とサルの赤ん坊との大きな違いは何か。サルの赤ん坊は生まれたときから「母ザルにしがみついていられる」点だそうだ。

 赤ん坊でも腕の力が強いし、母ザルの体毛も小さな指で握りやすいようになっている。抱きかかえる・しがみつく関係が仔ザルの成長とともに変化していく。そして「わき目もふらず仲間と遊び回る日常」が成長のあかし。

 サルの特性として、つねづね「ノミのとりっこ」を思っていたが、話題にものぼらないところをみると、バカのなんとかだったらしい。

※週刊ポスト2015年10月16・23日号

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