フェダーコ教授によると、年齢を重ねるにつれて体内の細胞の数が減り、栄養素を吸収する小腸の組織や筋肉などが萎縮する。小腸の内壁は襞(ひだ)状になっており、それによって表面積が広くなり、より効率的に栄養を吸収できるようになっている。その襞が萎縮してしまうと、摂取した食事の栄養を体内に取り込めなくなり、体重も維持できなくなる。
また、老化した細胞からは「炎症性サイトカイン」と呼ばれる免疫物質が大量に発生する。この物質が細胞の外に分泌されると周りの細胞の老化を促進し、体内の臓器や細胞が慢性的な炎症状態になり、機能低下を引き起こす。
例えば筋肉が炎症すると運動機能が衰え、肺を動かす筋肉の炎症は呼吸機能の低下を招く。これらが互いに結びつき、少しずつ生命の維持を困難にしていくと考えられている。
このように老化が進み、死期が近づくと、体重だけでなく「食事量そのものが減少する」と指摘するのは石飛医師だ。
今年3月、「芦花ホーム」で93歳の女性が老衰で亡くなったが、亡くなる2か月ほど前から食事量がそれまでの半分に減っていた。施設は通常の食事から介護用のプリンにメニューを変えたが、それでもなかなか受け付けなかった。
「この女性は段々と食事の最中にも眠るようになり、亡くなる1週間ほど前から何も食べられなくなりました。年老いた体が食べ物を受け付けなくなるのは“終わりのサイン”。これは老衰死の典型的なパターンです」(石飛医師)
※週刊ポスト2015年10月30日号