山手線の内側をパリ並みにすれば、建物の床面積は2倍以上になる。ニューヨークのマンハッタンにいたっては、平均使用容積率が住宅街で約630%、オフィス街のミッドタウンで約1400%である。東京の5~6倍の高さ(=床面積)の建物が建てられているわけだ。

 つまり、日本は建蔽率と容積率、とくに容積率をニューヨークやパリの水準に緩和するだけで、土地の要素が成長戦略に直結するのである。というより、3要素の中では、この土地の要素しか日本の成長余力はないと言える。だから私は、容積率を緩和することによって「土地ボーナスの開放」を図るべきだと考えているのだ。

 なぜ容積率が最も重要なのか? 「不動産の価値」は容積率に比例するからだ。たとえば、マンションの建築面積が100坪で容積率が600%だったら床面積は600坪だが、容積率が1200%だったら床面積は1200坪になる。

 都心で1坪あたりの販売価格が300万円とすれば、そのマンションの価値(共用部分の面積を無視した単純計算)は、容積率が600%の場合は18億円、1200%の場合は36億円になるわけだ。

 その不動産に投資してペイするかどうかは容積率で決まる。言い換えれば、容積率は「富」を生むのである。それを国が建物そのものの安全性や耐震性ではなく、用途地域などによって恣意的に決めているところに根本的な問題があるのだ。

 他の国はどうしているかというと、大半は国ではなく、州やコミュニティ(市町村)が容積率を決めている。たとえば、ドイツのフランクフルトはマンハッタン並みで制限がない。香港は土地が狭いため、地域によっては20mより低いビルを建ててはいけない。

 オーストラリアのゴールドコーストにある別荘地の場合は建蔽率100%で3階建て以下というルールがある。その理由は、建蔽率が小さい建物が建つと街並みが貧相になって不動産価値が下がると考えられているからだ。

 日本は、容積率や建蔽率、高さ制限、土地の用途など建物に関する規制の権限をすべて国から市町村に委譲すべきである。ただし、安全基準や耐震基準、街並みの統一基準などはむしろ厳しくして、地元の大学などがそれぞれの地域に合わせた基準を作り、最終的には住民が決めればよい。

※SAPIO2015年11月号

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