今年10月1日、中国の団体と交流をする宮崎県内の団体が宮崎県庁を訪れ、「八紘一宇の塔」と呼ばれる75年前に建立された塔の石材を中国へ返還せよと求めてきた。この石材はかつて中国・南京にあったもので、中国では“侵略の象徴”と扱われているというのだ。初めての要求に戸惑う地元と、申し入れた市民団体を取材したジャーナリストの小川寛大氏が、日本外交にとっての大きな損失につながりかねないと警鐘を鳴らす。
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返還の是非以前に、それには一つの物理的難関が待ち構えている。「塔は多くの石が組み合わさっている古い建造物で、一部の石材だけを抜き取るようなことは技術的にできない」(県庁都市計画課)というのだ。つまり、返還するには塔そのものを取り壊すしかない。県としては「現状のまましっかり保存したい」と返還には応じないという。
今回の問題について地元県民の最大の関心は、「なぜいまになって中国はこんな要求をしてきたのか」ということだ。
「今回の動きは、いわゆる『南京大虐殺』がユネスコの世界記憶遺産に登録されたことと連動しているのではないか」
そう分析するのは、中国情勢に詳しい評論家の宮崎正弘氏だ。
「この要求は明確に中国政府の意向に沿って行なわれているものでしょう。中国では国民の自由な政治活動は禁止されており、こうした政治的運動の背後には国家公安部などの存在があると見るのが自然です。
中国としては、世界記憶遺産への登録と前後して、同じ南京カードで日本を揺さぶっているのではないでしょうか。中国は、いまこの問題を持ち出して心理戦に持ち込めば、日本人はさまざまなことでひるむと考えているはずです」
問題の中国の“民間団体”は10月末に地元メディアとともに来日し、宮崎県庁を訪問して石の返還を直接要求するという。日本政府は、地方の問題として放置すべきではない。
※週刊ポスト2015年11月6日号