法的手続きを進めている最中は、裁判所の発行する「事件係属証明書」を持って役所にいけば住民票が発行されることになっている。

「でも、現実は違いました。役所で書類を見せて説明しても、“戸籍がないと手続きできません”と言われる。本来、総務省の通達で住民票を作れるはずですが、役所のかたにさえその仕組みが理解されていないのです」(アキさん)

 最終的に住民票は作成できたが、その過程は容易ではなかった。健康保険証も作成した。彼女にとって初めての身分証となる健康保険証だが、その作成を喜んだのもつかの間。すぐに健康保険の未払い分を請求された。

「時効になっていない過去2年分、3万数千円を支払いなさいというものでした。今まで保険証がなくて病院にも行けなかった人に対し、あまりに心ない請求だと思います」(アキさん)

 支援団体の助力もあり、アキさんの状況は徐々に好転し、今年6月、実父に対する認知手続きが完了した。1か月後、母親は改めて彼女の出生届を提出し、父の戸籍にアキさんの名前が記載された。アキさんは、33才で初めて戸籍を手に入れた。

「自分の存在がこの世界に認められて本当にうれしかった。父も母も喜んでいました。両親はつらく苦しい環境の中、できることはすべてやってくれました。感謝しかありません」(アキさん)

 南弁護士の紹介で、清掃業の仕事にも就いた。代えがたい充実感があるという。

「仕事をすることがずっと夢だったので…。銀行口座を持ち、初めて給料が振り込まれた時は、本当にうれしかった」(アキさん)

 仕事と並行して、高卒資格を得るための勉強も始めようとしている。戸籍取得によって役所から裁判所に情報が上がり、冒頭の通り、8月には母親が藤沢簡易裁判所に戸籍法違反を問われ、不服申立ての裁判は今も続いている。降りかかる数多の試練を前に、アキさんは決して弱音を吐かない。

「科料の5万円を払えば済むという問題ではないんです。この判決が決定してしまえば、私が前例となり、無戸籍者の家族が今後同じような罰を受けることになってしまう。こんな前例を受け入れるわけにはいきません。同じ境遇のかたがたのためにも、私は諦めずに闘い続けます。そして、裁判がきっかけとなり、少しでも無戸籍の現状が理解されることを祈っています」(アキさん)

※女性セブン2015年11月12日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

炊き出しボランティアのほとんどは、真面目な運営なのだが……(写真提供/イメージマート)
「昔はやんちゃだった」グループによる炊き出しボランティアに紛れ込む”不届きな輩たち” 一部で強引な資金調達を行う者や貧困ビジネスに誘うリクルーターも
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
小室眞子さん“暴露や私生活の切り売りをビジネスにしない”質素な生活に米メディアが注目 親の威光に頼らず自分の道を進む姿が称賛される
女性セブン
組織改革を進める六代目山口組で最高幹部が急逝した(司忍組長。時事通信フォト)
【六代目山口組最高幹部が急逝】司忍組長がサングラスを外し厳しい表情で…暴排条例下で開かれた「厳戒態勢葬儀の全容」
NEWSポストセブン
藤浪晋太郎(左)に目をつけたのはDeNAの南場智子球団オーナー(時事通信フォト)
《藤浪晋太郎の“復活計画”が進行中》獲得決めたDeNAの南場智子球団オーナーの“勝算” DeNAのトレーニング施設『DOCK』で「科学的に再生させる方針」
週刊ポスト
手を繋いでレッドカーペットを歩いた大谷と真美子さん(時事通信)
《「ダサい」と言われた過去も》大谷翔平がレッドカーペットでイジられた“ファッションセンスの向上”「真美子さんが君をアップグレードしてくれたんだね」
NEWSポストセブン
「漫才&コント 二刀流No.1決定戦」と題したお笑い賞レース『ダブルインパクト』(番組公式HPより)
夏のお笑い賞レースがついに開催!漫才・コントの二刀流『ダブルインパクト』への期待と不安、“漫才とコントの境界線問題”は?
NEWSポストセブン
パリの歴史ある森で衝撃的な光景に遭遇した__
《パリ「ブローニュの森」の非合法売買春の実態》「この森には危険がたくさんある」南米出身のエレナ(仮名)が明かす安すぎる値段「オーラルは20ユーロ(約3400円)」
NEWSポストセブン
韓国・李在明大統領の黒い交際疑惑(時事通信フォト)
「市長の執務室で机に土足の足を乗せてふんぞり返る男性と…」韓国・李在明大統領“マフィアと交際”疑惑のツーショットが拡散 蜜月を示す複数の情報も
週刊ポスト
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
高校時代にレイプ被害で自主退学に追い込まれ…過去の交際男性から「顔は好きじゃない」中核派“謎の美女”が明かす人生の転換点
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《死刑執行》座間9人殺害の白石死刑囚が語っていた「殺害せずに解放した女性」のこと 判断基準にしていたのは「金を得るための恐怖のフローチャート」
NEWSポストセブン
ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《小室圭さんの赤ちゃん片手抱っこが話題》眞子さんとの第1子は“生後3か月未満”か 生育環境で身についたイクメンの極意「できるほうがやればいい」
NEWSポストセブン
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
【独占インタビュー】お嬢様学校出身、同性愛、整形400万円…過激デモに出没する中核派“謎の美女”ニノミヤさん(21)が明かす半生「若い女性を虐げる社会を変えるには政治しかない」
NEWSポストセブン