ポッキー独自の、しかも最大の特徴。たしかにそれは軸の「持ち手」にありそうだ。チョコレートがコーティングされていない部分がたった2cmだけ残されている。その余白が、手を汚さないだけでなくおしゃべりしながら、歩きながら、本を読みながら、「~しながら」食べることを可能にした。何気ない工夫のようだが、消費者の指先まで気配りする、実に日本的でクールな構造ではないか。

「そのために高度な生産技術が必要になります。軸をまっすぐに焼いて割れないようにカットした上で、持ち手部分にチョコをかけずにコーティングする。生産設備を独自開発し、何十年も改良を重ねてきました。製造技術は一切、門外不出です」(広報部・窪田精一郎氏・61)

 菓子そのものの開発だけではなく、生産設備もあわせてゼロから開発してきた。だから、他社もなかなか真似できない。それが同社の創業時からの基本姿勢だという。

「とにかく人がやらないこと、他社ができないことをやる。創意工夫こそ、創業者・江崎利一の信条でした」(窪田氏)。

 大阪の企業らしく、“ソースにひたして食べる串カツ”のように持ち手があるといいと、「串カツ」からアイディアを得た、という話に思わず膝を打った。

 50年間、ヒット商品として売れ続けた秘訣はどこにあるのでしょうか?

「元開発責任者が絶えず口にしてきた言葉があります。『鮮度ときずな』です」(窪田氏)

「鮮度」。それは新しい情報、若い世代、時代と絶えずクロスしていくこと。新商品に注目が集まる菓子市場だからこそ、「常に話題を提供することが必要なのです」。

 一方で「きずな」。なぜなら、かつてポッキーを愛好していた消費者との関係を忘れず、戻ってきてもらう努力が大切だからだ。「これがポッキーだ」と納得が得られる、基本的な味は変えない。赤箱への原点回帰に、そうした姿勢がはっきりと表れている。

 手を汚さないための持ち手から「話しながら食べる」という行動が生まれ、「他の人とシェアする」共感が創り出された。そして今、ポッキーは海外へと大きく羽ばたいている。創意工夫から生まれた菓子が、今やクールジャパンを象徴する菓子として世界市場で10億ドルを目指して共感の和を広げつつある。

※SAPIO2015年12月号

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