2014年8月に広島市で発生した土砂災害では多くの命が奪われ、台風やゲリラ豪雨などによる被害に対する意識が高まっている。自宅が山の斜面にあり土砂崩れが心配な場合、どう対応すればよいか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
日本を襲った雨台風の被害を思い出すたび心配になっています。自宅が山の急斜面にあり、大雨でいつ土砂崩れが起きるかわかりません。役所に相談すると「それは個人の問題。山の所有者と相談してください」との返答。しかし、所有者とは連絡が取れず、今後はどのように対処していけばよいでしょうか。
【回答】
「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」では、傾斜度が30度以上ある土地を急傾斜地と定義し、崩壊する恐れがあり、崩壊したら相当数の居住者に被害が出る範囲を急傾斜地崩壊危険区域に指定するとしています。
この危険区域内では工作物の設置や木竹の伐採などの行為は禁止されます。当該急傾斜地を維持して保全を図るのは、土地の所有者の務めですが、急傾斜地の所有者など私人が施行困難、または不適当な防災工事は都道府県が行ないます。また、都道府県で独自に高さなどの基準を設けて防災工事をする例もあるようです。
裏山がこの急傾斜地に当たるかの確認が必要です。役所の対応からは非該当のようですが、念のため相談されてはいかがでしょう。急傾斜地の要件がなければ、土地所有者同士の問題です。崩落事故が起きる可能性が高いと、あなたの土地所有権の行使が妨害される恐れがあり、予防的妨害排除請求として防災工事を請求できます。
隣地で土砂を採取し、崖地になった事例や畑を水田にしたため段差ができた事例で、崩落の危険性があるとして防護措置を命じた古い判例があります。崩落を助長する工作物設置など人手が入った山であれば同様にいえると思います。
しかし、自然そのままの山については裁判例がありません。防護措置には大きな資金もかかり、崩落して困るのはお互い様です。そこで互いに協力することを定めた相隣関係の精神に基づき、共同負担するのが合理的です。前述の畑の地盤が脆いことから、下の土地の所有者が申し立てた防護措置設置要求を認めた高裁判決は、共同の費用をもって予防措置を講じるべきであるとしています。
所有者が行方不明でも対応できる法的手段があるので、専門家に相談されるのがよいと思います。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2015年11月20日号