人生には忘れることのできない存在が必ずいる。今の自分を作ってくれた恩師の姿は、温かな記憶とともに甦る。料理人の道場六三郎氏(84)が、料理の基本を教えてくれた恩師について語る。
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かつて出演していた『料理の鉄人』(フジテレビ系)で、枠に囚われない料理を生み出してきたからか、私は型破りな料理人というイメージを持たれているようです。でもそれも、土台となる基本を大切にしてきたからこそ。それは日本料理の原点である懐石料理を教えてくれた、茶道の数江瓢鮎子(かずえひょうねんし)先生のおかげです。
数江先生は中央大学名誉教授で学者である一方、帝国大学(現東京大)の学生時代に茶道部を創設し、茶の湯や懐石料理に関する研究者として知られています。
私が懐石料理を学び始めたのは遅くて、40歳を過ぎた頃。1971年に銀座に『ろくさん亭』をオープンした後のことです。近くの美術工芸展に出入りしていた時に数江先生と知り合い、「六さん、料理の理想は懐石なんだよ」とおっしゃっていただいたのがきっかけでした。
数江先生に教わりながら、色んな茶室に出張しては、懐石料理を作って腕を磨きました。失敗も多くて、焼き物のアユのたて酢に抹茶を盛り付けて色目を鮮やかにしたんです。そうしたら茶席の参加者に「これはやり過ぎだなあ」といわれてしまったこともありました。