11月13日に発生したパリの同時多発テロでは、ライブハウスやレストランが狙われ、約130人の犠牲者が出た。危機管理論が専門の大泉光一・青森中央学院大学教授が語る。
「テロリストは、普通の人が日常的に行くところをターゲットにすることで、人々に恐怖心・不安感を植えつけることも狙っています。カフェやスポーツジム、ホテルなどは標的になる可能性があります。実際、インドネシアのイスラム過激派組織ジェマ・イスラミアはホテルをたびたび襲撃しています。そうした日常的な場所を攻撃することで、人々の消費が止まり、経済的なダメージを与えることにもつながるわけです」
今やイスラム国(IS)から敵認定されている日本にとっても、テロは海岸の火事ではない。そんな国内で行動を起こすのは、日本にひそかに入国したイスラム過激派とは限らない。むしろ、テロ思想を持った日本人のほうが、公安当局の監視が行き届かないぶん危険とも言える。
中東で数々の戦場を取材している報道カメラマンの横田徹氏は、「たとえイスラム過激思想に染まらなくても、日本には格差などで社会に不満を持っている人はたくさんいる。そうした人物が、海外のテロに感化されて重大事件を起こす可能性がある」と語る。
今の日本は、警備の薄いソフトターゲットだらけだ。我々に身を守る手段はあるのだろうか。
国際政治アナリストの菅原出氏は、イギリスの民間セキュリティ会社の日本法人取締役を務めたこともある、危機管理の専門家だ。その菅原氏は「半径5mに注意すべき」と指摘する。
「テロ事件で犠牲になるのは、犯人の至近距離にいる人であるケースが圧倒的に多い。銃器はもちろん、爆弾でも、10m、20mと遠ざかれば死亡率は下がります。過去のテロ事件では、犯人は明らかに挙動不審であったとされます。
電車内や街中などではスマホに夢中になっている人も多いですが、周囲を見るだけで、不審人物に気付くことができます。そして怪しい人がいると思ったら、その場を離れる。レストランやカフェでは、出入り口付近や窓際にいる人の被害が大きい。なるべく店の奥の席につき、非常口を確認しておくだけで死亡率はぐっと下がると言えます」
自分の身を守るのは自分なのだ。
※SAPIO2016年1月号