建物内部も紹介しよう。最初のホールの天井には、数十人の慰安婦の顔写真を円形にかたどったオブジェが吊られている。旧日本軍の「性奴隷」制度の非人間性と、中国がその最大の被害国であると訴える解説板もある。
展示は延々と続く。紹介されているのは中国人や台湾人などのほか、やはり多いのは前出の朴氏を含む朝鮮人の慰安婦だ。慰安所の部屋や待合室も再現されている。内装は若者向けのカフェを連想する垢抜けたデザインで、当局の豊富な資金力が見て取れる。
公称によれば、この施設では1600件余りの物品と400枚以上の解説図、680枚以上の写真を展示中とのこと。もっとも使い回しが非常に多く、実際の情報量は公称の3分の1程度だ。ハイセンスな外見と施設規模に比して、内容の「薄さ」は否定できない。
陳列館は日曜と祝日は休館し、平日も午後4時半にクローズする。同一人物の参観を月2回以内に限る規定があるなど、一般市民向けに本気で展示を伝える気があるのか首を傾げる部分も多い。
「敏感な政治問題をはらむ施設だ。陳列館の関係者や、設置運動をおこなった市内の学者の紹介は勘弁してほしい」
昨年5月から陳列館への慰安婦ポートレートの提供事業に携わり、慰安婦写真集の出版歴も持つフォトグラファーの李暁方氏はそう話す。単なる歴史陳列館と呼ぶには、あまりにキナ臭い場所だと言うよりほかないだろう。
【プロフィール】安田峰俊(やすだみねとし):1982年、滋賀県生まれ。立命館大学文学部(東洋史学)卒業後、広島大学大学院文学研究科修士課程修了。在学中、中国広東省の深セン大学に交換留学。主な著書に『知中論』『境界の民』など。公式ツイッターアカウントは「@YSD0118」。
※SAPIO2016年3月号