──本書の著者は、日本でミニマリストが増えている背景には3つの条件があると言っていますね。〈増えすぎた情報とモノ〉〈モノを持たないで済む、モノとサービスの発展(注・スマホやシェア文化)〉〈東日本大震災〉です。
やく:著者は、地震によってモノが凶器となった恐ろしさや、津波によって大事なモノが流されてしまった虚しさについて述べていますが、震災の被災者だって、本当ならば、私が溜め込んでいるのと同じような、他人にとってはどうでもいいモノ、無価値なモノに囲まれた生活を続けたかったわけですよ。しかし、泣く泣く手放さざるを得なかったわけです。なのに、第三者がモノを持つことの虚しさ云々と言うのはちょっと不遜な気がしますね。
田舎に行くと、欄間にご先祖様の写真が飾られていたり、食器棚だかこけし棚だかわからないくらいゴチャゴチャといろいろなモノが棚に並んでいたりしますよね。それが田舎の生活の原風景だと思いますが、ミニマリストの人たちの言うことはそういうものを否定することになりかねません。無駄がないということは、人間的な温もりがないということです。そうした光景がミニマリストの原風景だとしたら、ずいぶん寂しくないかなと思います。
──そもそも、今なぜミニマリズムが流行っていると思いますか。
やく:若い世代を中心に、ある種の虚無感に支配されているからではないでしょうか。モノというのは本来、人間の営みと不可分のものです。だから、それに対する興味を失うということは現実からの逃避につながりはしないかと懸念しますね。ミニマリストの方には、物の数だけ人の営みがある、喜びがある、幸せがあるということに思いを巡らせてほしいですね。
●やくみつる/1959年東京都生まれ。漫画家、コメンテーター、エッセイスト。早稲田大学商学部卒業。週刊ポストなど連載多数。『やくみつるの大珍宝』(日刊スポーツ出版社)など著書多数。
(インタビュー・文/鈴木洋史)
※SAPIO2016年3月号