19歳の誕生日を翌日に控えたワンマンライブを最後に、私は地下アイドルを辞めようと思って活動休止ししました。あのときは本当に疲れ切って満身創痍でした。複雑な対人トラブルもありましたし、何よりも私生活の自分が、公の自分に殺されていく感覚に耐えられませんでした。技術よりもイメージが大事な地下アイドル業は、どれだけ自然体で活動していても、どこかで無理が生じます。人付き合いも大事で気が抜けず、帰宅してからもSNSは更新しないといけない焦りがあり、ライブは非日常的な躁状態で、良くも悪くもストレスがかかりました。
それでもいま地下アイドルとして活動しているのは、落ち着いて、自分ではない自分を楽しめるようになったからです。活動休止後の私は、自分を、姫乃たまという乗り物で、地下アイドル業界にやってきた旅行者であると考えるようになりました。そうすると肩の力が抜けるのです。しかし、あくまで乗り物を操縦しているのは自分なので、自然と、公の自分が私生活の自分と一致しました。その結果が、今日です。
私がインタビューで、「なるべく長く地下アイドルでいたい」と答えるようになったのも、今年になってからです。誰のことも排除しない、懐深い地下アイドルの世界がどうなっていくのか、身を持って体験したいと思っています。
アイドルは恋愛対象として語られがちですが、娘のような存在にも近いと思います。どこかに行ってしまっても寂しいし、ずっといられるのも心配でしょう。私がずっと地下アイドルでいようとしているのは、ファンの人にとって、いまは嬉しくても、いつか心配事になると思います。
地下アイドルになったからには、卒業してほかの場所へ羽ばたくのが、ファンにとっても本人にとっても理想なのかもしれません。それが人前に出るような仕事だったらさらに嬉しいことかもしれませんが、正社員になって充実した生活を送っている人も、結婚出産を経て幸せになっている人もいます。
先日共演したうち、ふたりの引退ライブは、数日前に終わりました。ライブハウスの前にはファンから贈られた「ご卒業おめでとう」と書かれた大きな花がありました。