慰安婦問題に詳しい明星大学の高橋史朗教授が指摘する。
「戦時下の暴行や強姦は女性の尊厳を踏みにじる許されざる行為ですが、軍による強制連行や慰安婦制度とは区別する必要がある。これを混同すると、“日本軍が組織的に中国女性を強制連行して強姦した”という誤解が生じます」
班監督の作品では、数名の日本兵が過去の蛮行を告白。例えば衛生兵だった人物は中国人を「性奴隷」にした日本の「ごろつき兵隊」についてこう述べている。
〈こういう連中がいわゆる「戦果」をあげるのである。中国の人たちを捕らえること、捕らえた者を殺すこと、女であれば犯すこと、そういうことを、ちょうど猟師が獲物をしとめたときに覚えるような快感をもってやる〉
元衛生兵は様々な媒体で同様の証言をしている。ところが14年10月、在米日本人と米国人ジャーナリストが元衛生兵を直接取材すると、彼は大要、こう主張したという。
〈日本兵による強姦や殺人を直接目撃したことはない。すべて伝聞だ〉(『Will』2015年1月号より)。
◆「この映画を中国で上映したい」
これでは映画の信憑性を疑われてしまうのではないか。
映画に登場する湖北省の袁竹林さんの証言も検証しよう。
16歳で出産し、貧しい生活を送っていた彼女は近所に住む張秀英という中国人女性に「旅館の仕事をしないか」と騙されて湖北省の町・鄂城に行き、「慰安所」に入れられた。当地では張秀英に監視され、「まさこ」という名前で客を取らされたと証言している。
〈(湖北省の「慰安所」では)妊娠したときは「紅花」という薬を飲まされました。そのあとお腹からどろどろの血が流れます。すると、体から力が抜けて、顔が黄色く痩せます。そんなことがあって、私は子どもを生めない体になってしまいました〉(映画パンフレットより)
先の劉さん同様、読む者に「日本兵はひどい」という印象を与える証言だ。しかしよく読むと、袁さんに薬を飲ませたのは中国人とみられる慰安所のオーナーであり、敷地外に出た彼女に暴力をふるったのも同じオーナーだ。そればかりか、「藤村」という将校が袁さんの傷を見てオーナーを怒鳴りつけ、後に彼女を慰安所から救い出したという。
※SAPIO2016年4月号