とはいえ、日清食品にだけガッカリするのは、ちょっと酷だし筋違いかもしれません。昔から日清食品は、カップヌードルのCMで果敢な挑戦をしてきました。そして、何度もクレームで放送中止という憂き目に遭っています。
そのうちのひとつは、2005年に放送された「NO BORDER」シリーズの少年編。どこか外国の海辺。銃を持った少年兵が、厳しい表情で海を見つめています。そこに妹と思われる少女がやってきて、少年兵は笑顔に。いっしょにカップヌードルを食べるふたりをバックに「世界には30万人以上の少年兵が存在している。僕たちは何ができるのだろうか?」というメッセージが映し出されます。
どう見ても平和を願っている内容だし、悲しい現実を広く伝えて考えさせてくれる素晴らしいCMでした。しかし、「子どもに銃を持たせるのはよくない」「少年兵の存在を肯定しているようにも見える」という頭の悪いクレームのおかげで、放送中止になってしまいます。日清食品もCMを制作したスタッフも、さぞ残念で、くだらないクレームを寄せてくる「世間」に、さぞ激しい怒りやもどかしさを覚えたでしょう。
そんな悔しい経験を何度もしているのに、懲りずに挑戦を続ける姿勢は、たしかに今回のシリーズCMの企画意図を体現しています。ああいうことで大きくしくじった矢口真里にCM出演というチャンスを与えたことも、非寛容な現代社会への問題提起に他なりません。CMを見て「這い上がる力」の大切さを感じた人も、きっと多いでしょう。
ここぞとばかりに日清食品を責めても、クレーマーのみなさんと同じ穴のムジナになるだけかも。
本当にガッカリしたほうがいいのは、偏狭な正義感に基づいた目先の自己満足のためにくだらないクレームをつける輩がたくさんいる社会や、クレームを毅然とはねつけることが許されなくなった状況に対してです。たとえば、不倫憎しでクレームをつけて世の中を窮屈にしても不倫は減らないし(むしろ増えるのでは?)、少なくとも目をつり上げている当人を不幸にするだけだということが、なぜわからないのでしょうか。
日清食品はHPの「カップヌードルのCMに関するお詫び」で、こう言っています。
〈今回のCMのテーマであります、「CRAZY MAKES the FUTURE.」のメッセージを伝える「OBAKA’s UNIVERSITY」シリーズは、若い世代の方々にエールを贈ることが主旨であり、今後も、そのテーマに沿って、このシリーズをよりよい広告表現で、引き続き展開してまいります。〉
ぜひまた、アッと驚く挑戦的なCMを送り出して、何度も這い上がってもらいたいものです。カップヌードルにお湯を注いだときのように、ワクワクした気持ちで待たせていただきましょう。次の大胆な挑戦を楽しみに待つ気運を盛り上げることは、くだらないクレームをつける輩が蔓延するトホホな状況へのささやかな対抗策でもあります。